複雑・ファジー小説

Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章開始 ( No.89 )
日時: 2012/01/05 14:38
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: gzQIXahG)

三章三話 take a look at his life






「ちょっと外走ってくる」

 結局大した量を走ることができなかった楓は他の皆にそう告げて、不足分を走るために競技場の外に出て行った。アップ用の靴を履いたまま。あんだけ時間あったのにと、代介を始め数人の者があきれ顔になる。しかし、色々とあったとしか言い訳ができなく、結局の話口をつぐんでしまった。これがただ単に楓の立場が劣勢だから抵抗しないのだろうと感じた他の連中は何も疑わずに楓を外に行かせた。
 同級生達に送り出されて楓は外に出た。外では試合を直後に控えた楓とは少し事情の違う選手たちが数十人走っていた。この真面目な面子の中で間抜けに遅れただけの自分が走ることに楓は抵抗を感じたが、こんな所で止まっている場合ではないと一歩を踏み出した。ゆっくりと階段を駆け降りる。
 するとまたしてもあの男を見つけることとなる。今朝から何度もその姿を目に収めている、琥珀という男。見ただけで涙が溢れそうになるほどの冷たさを、背筋に与える男。もしかしたら、過去に楓と接点があった少年が成長した姿かもしれない男子。きっとその名字は、白石。
 それにしてもこの男子は、本当に自分のいるすぐ近くに現れるなと楓は感じていた。三回もすぐ近くに現れるだなんて本当に偶然としか思えない。

「偶然……か。なんか天の声も一回、そんなこと言ってたかな?」

 一度だけ、尋常ではないほど長く意味を呑みこむのにかなりの時間と理解力を必要とした、『偶然なんて無いんだ』という発言。だとしたら今回もその偶然に見合うだけの理由が潜んでいるはずだ。どういう理屈があるのか、ゆっくりと考えてみる。少しの考察の後に大体の考えはまとまった。
 楓が三回も琥珀に遭遇したと考えるとかなり確率が低いかもしれないが、琥珀の行動のタイミングが日向高校の女子とのちょっとした喧嘩の野次馬の一人と重なったと考えると特に不思議ではない。両者ともに同じ所で同じ時に足を止めたのだ。解放されたタイミングも同じため、その後の行動を始める瞬間だって一緒だったに決まっている。
 サラサラと、髪をなびかせるためだけに、風が吹いたような気がした。瞳のすぐ前で黒い前髪がサラサラと揺れる。過去の自分との決別の証が自分に感情を想起させるために自我を強調している。その弱い風に地に堕ちている新緑の木の葉が飛ばされた。まだ木の葉が緑色であることを楓は確認した。そしてもうすぐ秋が来るのだと彼は気付いた。
 彼は秋という季節が嫌いだ。世の中の木という木の、その伸ばした枝につく葉が全て、この世で最も忌み嫌う茶というカラーに染まる。枯れて地面から落ちた茶色い葉っぱなんて誰も興味を示さない。それどころか、死をちらつかせて嫌われる。そんな理不尽な、自分とは関係のない理屈をこねて今までずっと楓はその色を拒絶してきた。
 なぜ自分はこのような姿に生まれたのか、なぜ他と違うだけでこれほどまでに疎外感を味わわなければならないのか、全然理解できなかった。今ならすぐに分かる。彼らは自分たちが上手くいかないことに対しての苛立ちを当てる、いわば欲求のはけ口が欲しいのだ、と。それならばできるだけ普通ではない方が良い。その方が罪悪感が薄れたり、楽しいのだろう。非人道的に思えるこの考え方は人類共通だ。きっと誰にも変えられない。
 楓は思い出す、氷室に対して嘘の告白などという事を『やらされた』、一週間ほど前の出来事を。
 その日は確か学校行事のマラソン大会だったと思う。当時の楓の学年は確か三キロ程度走ったのだろう。その日優勝するだろうと皆から言われていたのは、他ならぬ白石琥珀だった————。








 硝煙の臭いと火薬の炸裂する十世に酷似した効果音、いわゆる雷管の音をスタートの合図として、そのマラソン大会は始まった。戦闘に飛びだしたのは予想通り琥珀だった。その後ろに続く形で、二位集団が出来上がっていたと思う。その中の一人が楓だった。
 その大会で走るコースは決められていて、上りと下りが交互に現れる学校の外周だった。その外周を三周して、不足分を肯定のトラックを何週か走ることで大体の距離を合わせていた。
 一週目は戦闘の琥珀と自分たちの間の距離は目測にして百メートル程度とかなり開いており、勝負は彼の圧勝かと思われた。しかしそれは二週目で変化を向かえる。
 その差をせめて拮抗に埋めようと立ちあがったのは群青という同級生だったと思う。その群青が無理を押してペースを上げたのに、大多数の二位集団はその集団から引きはがされたが、楓は残った。最終的に残ったのはその二人だけだったはずだ。
 最終的に残った群青と楓はお互いに少しずつ速度を上げて、どんどん琥珀との距離を詰めて行った。二週目が終わるころには差が二十メートル程度になっていたと思われる。自分たちのペースも上がったがそれと同じく先頭の琥珀のペースも落ちていた。
 外周のラストの一周、それが終わった頃には楓は完全に追いついていた。正確には群青も追いついたのだが、その直後にまた離された。琥珀の中の王者の意地が、負けず嫌いの一面が最後に力を振り絞ったといったところだろうか。何にせよ、琥珀も楓も体力的に限界に近付いていた。その後は大して速度も変わらずに横並びの状態が続いた。お互いの息遣いが聞こえる程、差は無くて、息は荒かった。
 その後にどうなったのかは詳しくは覚えていないのだが、勝ったはずだ。
 そして知ることとなる。今まで、勝ちとは心地よく、楽しくて嬉しくて、皆から祝福されるものだと思っていた。でも……異端児と言えば聞こえは悪いが、出た杭というのは気に食わない者の手で打たれるもので、その日からいわゆる……世間で言う『虐め』が始まった。






                                            続きます



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あけましておめでとうございます。
一気に話を更新です。
久々に最初の方を読み返すとなんかヴァルハラの使者の言葉が好きだったんでもう一度出してみました。
書き忘れてますが楓達に鬼ごっこの際、才能を与えたのはあいつです。
この話でようやく楓の嘘の告白事件の全容が見えてきました。
では、次回に続きます。