複雑・ファジー小説
- Re: DARK GAME=邪悪なゲーム= 三章九話途中 ( No.99 )
- 日時: 2012/02/05 17:12
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: .pdYDMor)
三章九話 氷室の現状
「白石琥珀……って?」
「忘れたとは言わせない。同級生にいたはずだ」
そりゃあ、そんな事は覚えているけどさと、氷室は呟いた。その会話の内容を聞いて隣に立つサッカー部員はやはり知り合いだったんじゃないかと顔色を変える。
こんなに沈んだ状況でも、簡単に見てとれるほど彼は氷室にぞっこんのようだ。本人はおそらく気付いていないだろうと楓は思った。相手の感情を読み取れるタイミングって言うのは自分の感情だって悟られてしまう。それぐらいの事はおそらく氷室は理解している。よく知り合いもしない初見の相手に簡単に心を許すような性格の持ち主ではないことぐらい楓は分かっている。腐っても二回のげえむを共に生き抜いた仲だ。
何だかあまり有効的な色でもなさそうだと、神田は感じる。氷室という初対面の女はサッカー部の奴と二人きりで話す状況を打破するために話しかけたのはすぐに分かった上に、楓に至っては氷室を見た瞬間に一気にテンションが落ちた。とするとこの二者の間には何かがある。不器用な性格で、自分の心情を人に伝えるのが苦手な彼でも、人の感情を感じるのは鋭敏だ。彼自身簡単に人に心を許すから、容易に人の心を読み取ることが出来る。
「白石って確か、私が勝手にあなたに対して怒るようなことを仕向けた張本人でしょ?」
「そうだよ、知ってたのか……」
「ヴァルハラの奴から見せてもらったのよ。だからもうとっくにそれに関して言及することは無いわ」
「そうか……ありがとな。じゃあ、神田さんちょっと俺、今日はさっさと帰ります」
そう言い残して踵を返した。もうそこの三人に見せられるような顔ではなかった。氷室は既に許していると言った。勝手に引きずっているのは自分自身、それがさっぱり分かっていなかった。理不尽に人の命を奪う鬼ごっこのルールで激動に駆られたところからも察せられる通り、根は優しいものがあるんだろうなと、誰にも言わず、彼自身にそう言い放った。
「やっぱり何かあったんじゃねえの、楓? お前普段と全然違うこと、気付いてるか」
一旦は反対側に向けた顔を噛んだの方にもう一度向ける。いきなり彼は振り向いたその顔をがっしりと両手で挟むようにして掴みこんだ。
「精気が全然ねえんだよ! この顔にな!」
「そうよ、そこの……誰かさんの言う通り。あんた本当なよなよしてるわよ、今」
「誰かさんとは失礼な。俺は神田桐哉、男バスの二年だ」
「ああ、大谷要って有名人の……コンビ?」
「人を勝手に付録みたいに言いやがって……楓、こいつ誰だ?」
喋りたくても彼は喋ることができなかった。左右から抑えつけられているせいで口が思うように動かせないからだ。
気付くのは確かに遅かったが、気付いた神田はすぐさまその手を離した。途端に風船が割れたように楓の口からは空気が、声が漏れだした。
「ぶはぁっ! いきなり何するんですか神田さん! 一切喋れないんですよあれ!」
「悪い悪い、でこいつ誰? 本当にただの転校生か?」
「……本当に転校生ですよ。でも、初対面じゃないです。俺、小学校の頃に転校してきたんですよ。前の学校のクラスメイトがこいつです」
「それだけか? それ以外に接点はないのか? 何かしら因縁が無いとあんな雰囲気にはならねえだろ」
「本当に鋭いですね……ちょっと諍いがあったんですよ」
そこで楓は言葉を切った。それ以上言い続けることはできなかった。それ以上口を動かしたら本当にダムが決壊して、泣きだしてしまいそうだったから。
ちょっとした諍い、客観的にはそう見えたんだと自分でも思っていた。ただし当事者の彼にとっては、琥珀から植えつけられた感情としては絶対的な恐怖とトラウマ。氷室に対して植え付けてしまったのは、今はもうないが怒り、自分には罪悪感。負の感情ばかりが蓄積されて今にも壊れてしまいそうな時に、引っ越すことになった。
思い出したくもない忌々しいあの男が唯一楓のためになった行動は引っ越しだった。何で引っ越しなんてするのか、したのか、昔も今もその理由は理解できていない。楓の父親の職業は確かに全国を転々とするが、妻子を連れて一々住所を変えないといけないとなると面倒だから単身赴任で終わらせるべきなのだ。なぜあのたった一回だけ自分たちも連れて行ったのか分からない。
虐めを察してくれていたなんてことはありえないと最初から分かり切っている。彼は母親には言ってもいないし気付かれてもいなかった。それよりも楓について何も知らない父親の方がそれを理解しているなど、ないに決まっているのだ。
それよりも、どうやってこの状況から逃げ出そうか考えていた。本当にどうしようもなくて、怖くて怖くて何をしたらいいのかさっぱり分からない彼を、運命はさらにどん底に突き落とした。
瞬間、彼の足元の影は渦を巻いて踊りだした————。
「何だ……これ……!」
不意打ちにあった楓は抵抗しようと手足を動かす前にその影に呑みこまれた。ぐちゃぐちゃとした不快音を耳にしながら妙な既視感に襲われた。彼の目の前では同様に氷室、サッカー部の奴、神田も漆黒の何かに捕われている。
「まさか……これって!」
とんでもない時に来たと、彼は一人この現象に納得した。これはげえむ開始の合図だろうと。精神的にどん底に押し込められている時にこれとは、図ったかのようだ。それに、まだ鬼ごっこが終わって一週間も経ってないのにもう三つ目のげえむが始まるのかと絶望する。これでは、来週も再来週も、週に三回程度の割合で死と隣り合わせになって暮らすことになる。いつ始まるか分からない焦燥感、それも加味すると毎日が不安になるだろう。
不味い、どうする?頭の中でそのように楓は考えた。こんな頭の回転しないコンディションでハードなげえむは乗り越えられないぞと冷や汗を流す。自分はどうでも良いが、神田と氷室を助けないといけないと、勝手な使命感が彼の中で生まれていた。自分が全ての者を助けるのだと言う盲信、そのような感情すらいつ湧いたか分からない。
そして、気付いた時に目の前に広がっていた景色は、闇戯町の西端にある大きなレジャーランドだった。しかし、休日のその場所にしては信じられないほどに閑散としていた。人っ子一人どころか生き物が存在していない。
「フムゥ……貴様が楓秀也か?」
目の前には白髪を貯えて、巨大な刃の付いた鎌を持った老人がいた。その風格と威厳は人間のものとは思えず、神々しくもあった。
ただし、禍々しさも兼ね備えていたのですぐに分かった、『アダムの使者』だと。
続きます
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すいません、mixi始めて更新ペースガタ落ちですね。
飽きずに読んでくれる方が果たして何人いることか……。
そして久々のげえむです、次回……だけで終わるかなぁ?