複雑・ファジー小説

Re: 空を見上げて見えた物は・・・ ( No.15 )
日時: 2011/08/24 20:20
名前: 秋桜 ◆SVvO/z.cC. (ID: ueXHoJNS)

第6話〜暖かさ〜

いつもはにぎやかな夕食の時間。
その日は静かに終った。

「美香ちゃん」

不意に祖母が話しかける。

「え……?な、何?おばあちゃん」

いきなりの事に驚き、一瞬美香は戸惑った。

「先にお風呂入りね」

「うん……」

いつもと様子が違う。
確信はないが美香は何故かそう思った。



ガララ……
ドアを開けるとともに、暖かい湯気が襲い掛かる。

「なんか……変だな……おばあちゃん……」

美香は髪の毛を洗いながらつぶやく。

何処となくぎこちない……前まではこんな事なかったはずなのに……

美香はうつむき、ため息をつく。

「痛……!」

目に泡が入る。

「……そういえば、お母さんにいつも言われてたな……シャンプーする時うつむいちゃいけないって……」

そうつぶやく美香の目には、優しかった母、奈保子の姿が浮かぶ。

「あの時はシャンプー……嫌だったな……」

美香の頭の中には、母に抑えられながらシャンプーをされる自分の姿があった。 


〜回想〜

「お母さん。早く出たいよ〜」

美香が母親につぶやく。
母親は、にこりと笑いながら言う。

「だ〜め。女の子にとって髪の毛は命なんだから」

「命?」

「そう。命。髪の毛が綺麗じゃない子は、怖い目にあうんだよ?」

にこりと微笑みながら髪の毛を洗う、母の姿。

「コワイのヤダ……ちゃんと綺麗にする」

美香の可愛い決意。
その様子を見て微笑む母。
何もかもが普通だった。

〜〜

「お母さん……」

そんな事を思い出し、涙が頬を伝う。
いや、水滴かもしれない。

泣いてる事に気づいた美香は、水を頭からかぶった。

「やっぱり……冷たい……」

そんな事をつぶやく美香の表情は何処となく寂しげだった。

「美香ちゃん〜?デザートできたよ〜?」

祖母の声が聞こえる。
美香は、慌てて答える。

「は〜い。すぐ出る〜」

不思議と祖母に感じていた蟠りが抜けて気がする。
美香は、満面の笑みで答えられた。

祖母が作ったデザートは何処となく母のデザートに似ていた。

「おいしいかい?」

そういって訊ねる祖母の顔は母の顔にそっくりだった。

「うん……」

最後のほうは涙声になった。

「おやおや。どうしたんだい?」

優しく祖母が訊ねる。

「どうもしない……グス」

「ほら。泣くのはおよし。別嬪さんが台無しだよ?」

「うん……」

本当に優しく、美香を気遣ってくれる祖母。
いつか消えてしまうかもしれない恐怖に怯える美香。

この2人の溝は少し、埋まったのかもしれない。

第6話オワリ