複雑・ファジー小説

Re: モンスターの国のアリス ( No.1 )
日時: 2011/09/05 22:02
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

第Ⅰ章 不思議な世界へ

「何これ許せなーーーい!!!」 
 
 私の名前はリズ。
何が許せないのかというと、私が読み終わった本の結末である。
 その本のストーリーは怪物達が願いを叶える為の宝を探すというファンタジー。それが、誰かが誰かに殺されてしまう場面で終わってしまっているのだ。その場面では挿絵が無いし、人物の名前の描写もない。

「一体誰が誰に殺されちゃったんだろう」 
 
 ページをぺらぺらとめくって推理をしてみる。

「全然分からない……」
 
 続きが気になる。

「やっぱりその場にいないと分からないよね〜」
 
 私がこの場面にいたら。殺されてしまう ”誰か”を助ける事が出来るのに。

「とりあえずこの本は残念だけど図書館に返しに行こう」

Re: モンスターの国のアリス ( No.2 )
日時: 2011/09/05 22:04
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

 図書館へと向かう途中に気づいた。図書館なんて、この街にあったっけ?そもそもこの本はいつ借りたっけ?

 タタタッ

「え!?」

 目の前で不思議な事が起こった。靴が走っているのだ。

「あ、ありえない……。だけど、追いかけてみよう」

 なぜか恐怖よりも好奇心が芽生えた。

「待って〜!」

 街の中を走っていく。

「待ってよ〜!」 

 今の私はウサギを追いかけるアリスのよう。街の人々の視線が気になるけど。

「待ってって言ってるでしょ〜!」

 靴は全然待ってくれない。靴はある建物の中に入って行った。

「え? なーんだ、あったんだ!」

Re: モンスターの国のアリス ( No.3 )
日時: 2011/09/05 22:05
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

 図書館があった。

「こんにちはー」
 
 返事がない。

「こんにちはー! 誰かいませんかー? 本を返しに来たんですけどー」
 
 やはり返事がない。誰もいないようだ。すごく静かだ。まるで時が止まった空間みたいだと思った。

「靴はどこに行ったんだろう。……あそこかな」
 
 あの扉の向こうにいるのかも。扉を開ける。部屋の中は真っ暗で何も見えない。一歩進むんでみよう……。
 足を踏み入れた瞬間、

「うわっ!」

 落ちた〜〜〜〜〜〜〜!!!!!


Re: モンスターの国のアリス ( No.4 )
日時: 2011/09/06 20:36
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

「いっった〜……」
 
 あんな高い所から落ちたから死ぬかと思ったけど、生きててよかった。思った通り、靴もいるしね。

「やはり来てしまいましたか」
 
 声が聞こえた。

「だっ誰?どこにいるの?」

「ここですよ」
 
 見渡しても誰もいない。

「どこ?」

「あなたの目の前にいます」
 
 目の前? 目の前にあるのは靴だけ。

「靴が喋ったぁぁああ!?」

「ああ、そういえば私の姿は見えないんでした」
 
 靴は笑ったような声で言った。

「あなた……。何者なの?」

「透明人間です」
 
 透明人間! あの!?

「本当!? わあ、嬉しい! こんなことってありえるんだあ!」

「驚かないんですか?」

「私こういうの好きなの!」
 
 そう、私はこう見えて大のオカルト好きなのだ。

Re: モンスターの国のアリス ( No.5 )
日時: 2011/09/05 22:30
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

透明人間は呆れたように言った。

「そんな呑気でいいんですか? もうこの世界から帰れなくなるかもしれないのに」
 
 この世界?

「この世界ってもしかして……」

「あなたが読んだ物語の世界です」
 
 やっぱり。じゃあ、物語の結末の真実が分かるんだ!

「帰れなくったっていいわ。現実は楽しくないし……それに」

「?」

「これは夢なんでしょう?」
 
 私きっと夢を見てるんだ。そうに違いない。

「まあ、半分が夢で半分が現実……ですね」 
 
 透明人間は「はぁ……」と溜息をついている。

 「これからどうするんです? 立ち止まっていては物語は始まりませんよ?」
 
 この物語を動かすのは私って事ね。

「でも……。一人じゃ心細いしなあ……」
 
 だって私は人間で、ここはモンスターの国。何があるか分からない。

「……突然ですが、あなたはこの物語でどの登場人物が好きですか?」

Re: モンスターの国のアリス ( No.6 )
日時: 2011/08/05 15:27
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

「えっ」

 どのって言われても。強いて言うなら皆好きだけど。

「皆好き」

 私は正直に言った。嘘はいけないもん。

「そうですか。ならあちらの扉を開けてみてください」
 
 靴は扉を指しながら言った。

「それでは、お気をつけて。行ってらっしゃい」

私は大きな扉を開けた。

Re: モンスターの国のアリス ( No.7 )
日時: 2011/09/05 22:11
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

「わあ……!」
 
 目の前に広がる世界は私が住んでいた街とは全然違った。どこを見ても緑なのだ。

「でもどこにもモンスターが見当たらないし……。自分で探せってこと?」

この物語は主人公が仲間のモンスターを見つけるところから始まるのだ。

「私が主人公か……」

 空を見上げる。どこまでも続く、青い空を。

「待ってくださ〜い!」

 もの凄いスピードで透明人間が走ってきた。もうちょっと空気読んでほしかったな。

「言い忘れたことがありました! すっごく大切なことです!」
 
 大切なことなら言い忘れないでよ……。

「絶対に物語の秩序を壊さないでください!」

「え、うん」

 聞いてなかった。

「あとなんか心配なんでついていきます」

「靴が私を守れるの?」

「靴じゃありません。一応透明人間です」

 そうだった。透明人間だった。私には靴しか見えないのよね。透明人間は身体が透明なんだよね。
……服は? 考えたら負けかな。

「とりあえず誰を見つけます?」

「うーん……。じゃあミイラ男で。」

物語の中では主役級に活躍していたモンスター。

Re: モンスターの国のアリス ( No.8 )
日時: 2011/09/05 22:13
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

「詳しそうなあなたに聞くけど……。ミイラ男ってどんな人?」 
 
 あの本には特に人物の性格は書かれていなかったし。

「あんなやつです」
 
透明人間が指した方を見ると、ミイラ男はいた。案外見つかるの早かったな。

「すー……」

「寝てる?」

「寝ちゃってますね」
 
 ミイラ男は木にもたれかかり、気持ち良さそうに寝ていた。顔や身体にはところどころに包帯が巻かれていた。顔は包帯でよく見えない。でも、日に照らされて輝いている銀色の髪が、すごく綺麗だと思った。

「もしかして、本当に包帯の下は骨なのかな」
 
 顔にはちゃんと皮膚(肌)があるが、まさか……。
私ってこういうとこダメだな。気になったらじっとしていられない。

「確かめて差し上げましょうか?」

「え」
 
 透明人間はハンマーを取り出し…。

「ちょっ…」
 
 大きく振り上げた。

Re: モンスターの国のアリス ( No.9 )
日時: 2011/09/05 22:14
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

 ばしっ

「痛ッ」
 
 起きた。そしてたぶん骨が折れた。

「骨は折れてないみたいです。……ちっ」
 
 舌打ちみたいなのが聞こえたけど気にしない。

「大丈夫?」
 
 ミイラ男の傷を触った。……骨だ。

「人間……?」
 
 ミイラ男はそう言うと私の手を払って青い目で睨んだ。

「なぜ人間がここに……?」

「えっ……えと」
 
 急な質問に困る。

(彼は極度の人間不信です)
 
 透明人間がそう耳元で囁いた。

「答えろ」

 私はミイラ男の手の平からのびる包帯に縛られてしまった。身動きが出来ない。本当のことを言ってみよう。

「なぜなのかは言えないけど私、ある宝物を探しているの!」

「宝?」

「それはどんな願いも叶える不思議な宝物らしいの。それでね、良かったら一緒に探して欲しいんだけど……」

 本の主人公と同じことを言う。

「人間のお前に、何が出来る?」
 
 なぜだか胸が痛んだ。はっきりと拒絶されたみたいで。

「それは……」

「答えられないのか? ……残念だ」

そうだ。本の主人公は魔女。
私は何も出来ないただの人間……。
……いや、出来ることがあった。

Re: モンスターの国のアリス ( No.10 )
日時: 2011/09/05 22:15
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

「予言が出来る……」
 
 魔法なんてものは使えない。だけど物語を最後まで知っているのだから。きっと力になれる。
 きっと無理だろうと思い、涙が溜まっていくのが分かった。

(ダメ……かな……?)

 ミイラ男は少し黙り込んでから言った。

Re: モンスターの国のアリス ( No.11 )
日時: 2011/09/05 22:17
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

「……そうか。良いだろう。ついてってやる」
 
 意外な言葉だった。
 私を縛っていた包帯は解かれた。ミイラ男の目が一瞬優しくなった気がした。

「本当!?」

「ああ。しかしまだ完全には信用していないからな」

 それでも嬉しい。信じてもらえたのだから。

「ありがとう……」

「あと、お前の後ろに隠れているそいつも、な」

 透明人間は(見えないけど)必死に目を逸らしているようだ。……さっきのこと怒ってるみたい。

「さ、さあ? 何のことでしょう?……はは、あはは。急な用事を思い出したので私はここで!」

 透明人間はもの凄いスピードで逃げた。