複雑・ファジー小説

Re: モンスターの国のアリス ( No.14 )
日時: 2011/09/05 22:18
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

 あっという間にもう夜だ。

「……」

「……」
 
 どんどん森を進んでいるのだけど、なんというか今、すごく気まずい……。

「夜の森って暗いねっ」

「……ああ」
 
 とまあこんな感じだから。
 透明人間〜! こんな奴と2人きりにしないでよ〜。

カァーカァー

「きゃあ!!!」

「落ち着け、ただのカラスだ」

 び、びっくりしたぁ……。

「お化けかと思った」

「……」
 
 お化けと一緒にいるんだった。

「霧が出てきたな……今日はここで寝るか」
 
 こんな森の中で!?

「嫌だー! こんなところで野宿とか絶対嫌!」

「ん? おかしいな……」

「おかしくない!」

「いや、そうじゃなくてあれ……」

ミイラ男が指差した方向を見ると、大きな洋館があった。洋館って言うよりお城?

「ラッキーだわ! あの屋敷に泊めてもらいましょうよ!」

「お前馬鹿か? よく考えてみろ。こんなところに屋敷があるのはおかしくないか?」
 
 たしかにおかしいけど。

「吸血鬼か何かいるかもしれないぞ」

 吸血鬼!

「それならなおさら行くわ」

「……本気か?」

「もちろん本気よ。ちゃんと防犯グッズも持ってるし」

 私のポケットの中には十字架、木の杭、聖水が入っている。対策はできている。ニンニクは臭くなるからやめておいたけど。

「聖水はオレも苦手だ……」
 
 聖水はミイラ男にも効くことを私は知っていた。これで私はどんなモンスターにも襲われない……はず。

「じゃあ行きましょうか」

Re: モンスターの国のアリス ( No.15 )
日時: 2011/09/05 22:21
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

「ごめんくださーい。泊めて欲しいんですけどー」
 
 建物の中もお城みたいだ。
 メイドさんが階段から降りてきた。

「お呼びでしょうか、お客様」

「一晩泊めて欲しいんです」

 メイドさんはもう一度私を見て言った。

「もちろん大歓迎ですよ。お疲れでしょう」

「ありがとうございます!」

「あら、お客様。肩に糸くずが……」
 
 メイドさんが私に近づく。今だ。

「見てください、この十字架のペンダント。すごく綺麗でしょう?」

「きゃあぁッ!!! 十字架!!!」
 
 このメイドさんは吸血鬼だ。今も私の血を吸おうとした。間違いない。ここが吸血鬼屋敷だ。
 私は十字架をポケットに入れる。

「ここの主さんとお話がしたいので案内してくれませんか?」

「はっ、はいぃ〜」
 
 メイドさんはすっかり私を恐れてしまっている。
……悪いことしちゃったかな。

「お前怖いな……」
 
 ミイラ男にまで言われてしまった。

「仕方ないじゃない。正当防衛よ」

 メイドさんがノックをする。

「旦那様。お客様がいらしております」

Re: モンスターの国のアリス ( No.16 )
日時: 2011/09/05 22:22
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

誰もいない?

「やあ、こんばんは。こんな遅くにどうしたんだい?」

「!? きゃぁぁあああぁぁ!」
 
 男は天井に逆さになって浮いていた。しゅっと男は床に立った。

「あはは。驚かせてしまったね。」

 美しい青年だった。後ろに結ってある長い金の髪。
どこかの伯爵……または王子のような服装だ。妖しげな赤い瞳に思わずうっとりしてしまった。

「あなたも吸血鬼なの?」

「そう。僕は吸血鬼。君は人間だね。なぜ人間の君がここにいるんだい?」

「それは……」

 わけを説明した。

「ふうん。願いを叶える、お宝か。……もう夜も遅い。明日の朝答えを出すよ」

Re: モンスターの国のアリス ( No.17 )
日時: 2011/09/05 22:23
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

—朝—

もう朝か……。

「遅かったな。この世界で夜に睡眠をとるのは人間くらいだ」

 ミイラ男が無愛想に言った。

「じゃあ、あなたたちモンスターは夜に寝ないの?」

「オレたちモンスターは夜に動くんだ。だから朝は苦手だ……ふぁあ」

「お客様、朝食の準備が出来ています」

 メイドさんが私たちを呼ぶ。

「わぁあ〜!」
 
 美味しそうな料理が並んでいる。そういえばこの世界に来てから何も食べていなかった。

「いただきまーす」
 
 料理を口に運ぶ。すごく美味しい。

「もぐもぐ……。ミイラ男は食べないの?」

「いや、オレは……」

「あー。骨だったね」
 
 いまさらだけど気づいた。肝心の吸血鬼がいない。

「メイドさん、吸血鬼は?」

「もうすぐ来ると思うのですが……」

「おはよう」
 
 吸血鬼が眠そうに階段を降りてきた。吸血鬼って朝に弱そうだもんな。

Re: モンスターの国のアリス ( No.18 )
日時: 2011/09/05 22:25
名前: 七瀬 ◆50da5jMTv2 (ID: ADlKld9P)

「血をくれ……」
 
 そう言って吸血鬼は眠そうな顔をして襲いかかってきた。血をあげるとかそれだけは無理!

「えっ…えっとぉ、ミイラ男の血を吸えばいいんじゃないかなぁ」
 
 視線をミイラ男に移す。ミイラ男は首を必死に振っている。

「メイドさん助けてー!」
 
 同じ吸血鬼だが一度脅しているメイドさんに助けを求める。

「だ、旦那様! 血ならここに、昨日仕入れた人魚の血がありますよ!」

 とりあえず人魚の血を飲むことで一件落着。

「さっきはとり乱してしまってすまなかった」
 
 吸血鬼が私に謝る。

「いや、そんな謝らなくても。吸血鬼なら普通だよ!」

「そして昨日の件について色々考えたんだけど、僕もついて行っていいかい?」

「もちろん!」

「ありがとう、お姫様」
 
 そう行って吸血鬼は私の手の甲にキスをした。

「!?」
 
 ……なんて恥ずかしいことを。
まあとりあえず仲間が増えたからいっか。