複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.1 )
- 日時: 2011/09/08 17:40
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: yjIzJtVK)
- 参照: タイトルに反して、主人公は男です。
つい先月、大学のセンター試験に落ちて、見事に桜散った俺——葛城夢幻(かつらぎ むげん)は、近所のスーパーのインスタント食品やスナック菓子といったような食品類をタイムセール特別価格で手に入れてきた帰りで、現在、ちょうどスーパーと家までの距離が等しくなるくらいの位置にいる。
受験には落ちてしまったものの、俺の志望校は「落ちて元々、一浪ニ浪は当たり前」と言われているような国内でも一、二を争うレベルの難関校だったため、思っていたよりも親達から咎められることはなかった。
仕送り額が減っていたくらいで……!!
親はさりげなくご立腹のようで、しばらくの間、タイムセール時の価格が半端ではなく安い、と誉れ高い近くのスーパーで買ったインスタント食品にお世話になっている。
恐らく、今後も長いお付き合いになるだろう。
「あの、すみません」
なんて、如何にも冴えない浪人生といった感じのことを考えながら歩いていると、突然、見知らぬ女の子に話しかけられた。
その子はパッと見ただけでも、非常に整った顔立ちとスタイルをしているのが窺える。
キツすぎずパッチリとしたツリ目気味の目に、淡いさくら色のプックリとした唇、可愛らしく清楚なセーラー服風の濃いめのピンクを基調とした服のミニスカートから覗くスラッとした足、服の胸部は彼女の胸のふくらみに沿ってかなり膨らんでいる。
白雪のような肌、両手の拳を保護するかのように巻きついている真っ白な包帯、服に合わせたらしい少女趣味な装飾があしらわれたメリケンサック的な武器。
現実のものとは思えないような美少女だった。
……メリケンサック的な武器を除いて。
「あの、すみませーん?」
聞こえていなかった、と思ったらしい女の子が再び声をかけてくる。
顔もスタイルも非常に良いのだが、最早、メリケンサックしか目に入らない。
メリケンサックのせいで、彼女の印象が「現実のものとは思えない」から「現実のものとは思いたくない」に変わってしまいそうだ。
「あ、はい。 どうかしましたか?」
見知らぬ人とはいえ、流石に、女の子をこのまま無視し続けるのも申し訳ないので、返事をする。
「この辺に廃墟とか人目につかず、思い切り闘える場所ってありますか?」
メリケンサックの女の子は容姿に違わぬ、愛らしい声でとんでもないことを尋ねてきた。
何この子、ヤンキー? こんなに清楚で可愛らしい見た目をしているのにヤンキーなのか?
「……この辺にはありません」
自分の身にもしものことがあったら、などと考えているわけではなく、本当にこの辺りには存在していない。
隣のエリアに行けば、そういう場所は腐るほどあるらしいが、大きなショッピングセンターなどがあるわけでもないし、そのエリアへは行ったことが無い。
そもそも論、俺自身も1年前に上京してきたばかりで、いまいちこの土地について分かっていない、というのが本音だ。
「そうですか……」
メリケンサックの女の子がシュンとした表情で、残念そうに肩を落とす。
その動きに連動して、薄いピンク色のふわふわとしたロングのツインテールが揺れる。
子犬のようで非常に愛らしい仕草なのに、やはり指に嵌まっている凶器のせいで僅かながらも恐怖を感じる。
「じゃあ、俺はこれで失礼しますね」
その場を立ち去ろうと、俺が軽く頭を下げる。
眼福ではあったが、代償として冷や汗が止まらなかったな……。
「はい、ありがとうござ……うきゅ」
「ど、どうしたんですかッ!?」
メリケンサックの女の子が言葉の途中で前のめりに倒れかけたため、スーパーの袋を地面に置き、すぐさま支える。
「は、恥ずかしながら、お腹が空いてしまって……」