複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.100 )
- 日時: 2012/02/08 21:10
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: pvHn5xI8)
- 参照: レス数100到達!! 皆様の応援に感謝です(*´∀`*)
「青年は俺の裸を見ても、何も思わないの?」
真面目にジャージを探索している俺の背後から、体を隠すために布団にくるまった潮さんが尋ねてくる。
どうやら、ジャージが入っているのはこの段じゃなかったらしい。
「思いませんよ」
潮さんへ返事をする。
むしろ何か思っていたら問題だ。
「傷のせい? 傷のせいで?」
潮さんが今にも泣き出しそうな震える声でそう言う。
やはりあの傷には話したくても話せない重い理由があるのではないだろうか
。
それなら、脈絡もなく潮さんが『傷』云々言い出したのも理由を付けられる。
「やっぱり身体に傷があったらダメなんだ?」
潮さんが冷たい声でそう吐いた。
「……突然どうしたんッ」
俺が言葉を発している途中で、潮さんの爪が俺の両肩に突き刺さる。
肉に食い込んだ爪が血管をも突き破ろうと更に力を加えてきた。
「青年も傷があるから拒絶するの? 身体が綺麗だったら、愛してくれたの? そうやって、またあの人みたいに俺のことを拒絶するの!?」
潮さんの爪が俺の肉を断ち、少量ではあるが血を噴出させる。
興奮した様子の潮さんが血を見て、これまた唐突に我に帰る。
「せ、青年。 …………ごめん」
潮さんが俺の両肩から手を離し、布団の中へ頭から爪先まで潜り込む。
爪によって作られた傷に軽く触れてみる。
黒い服を着ていたのが幸いして血の汚れは洗えば気にならなくなるだろう。
しかし、傷本体は割と深かったらしく、服の上から触れた瞬間に条件反射で思わず手を離してしまうくらいだ。
意を決して、傷口に癒着し始めている服をゆっくり剥がし、直に見てみる。
「うっ……!」
赤黒くパックリと開いた傷口はなかなかにグロテスクな状態だった。
一つ一つは小さいが、そんなものでも五個もあつまると凄惨に見えてくる。
「夢幻さーん、潮さーん! どうかしたんですか?」
コンコンという軽い音がなり、続いて和ちゃんの声が響いた。
大方、潮さんの大声が聞こえたからだろう。
「ううん、ちょっとつまづいて転んだだけだから! あ、キッチンの一番下の棚に消毒液と絆創膏が入ってるから出しておいて!!」
和ちゃんをごまかしつつ、救急用具を出すように頼む。
潮さんはというと、布団の中から出てくる気配すらない。
可能性は低いが、今ので疲れて二度寝に突入してしまったのかもしれない。
「ジャージとか置いときますね」
潮さんの枕元にジャージと新品の下着をおいてから、応急処置をするべく部屋を出る。
初めて我が家のキッチンに立った和ちゃんが絆創膏などを見つけられたかどうかは微妙だから、それを出すところからだな。
「夢幻さん、絆創膏は出てきたんですけど、消毒液が空っぽのしか無くて……」
どうしよう、それは予期していなかった……。