複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.106 )
- 日時: 2012/02/14 22:39
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: pvHn5xI8)
「あっ、これは消毒した方がいいですね」
消毒液が無かったから、やむなく水で洗い始めた俺の傷口を和ちゃんが見て、そう言った。
ごもっともな意見なのだが、裸エプロンの効果でアホっぽく見える。
「【木治録】」
和ちゃんがそう唱えると彼女の手が薄い緑色に輝く。
数秒待っても発光は収まらず、むしろ彼女の掌側からキュインキュインとかいう形容しづらい甲高い音がなり出した。
漫画とかアニメで言うとチェーンソーのように切れ味の良い刃が超振動を繰り返すような————
「待って!!」
「どうかしましたか?」
本人は「治す」って言ってたけど、どう考えたって殺そうとしているとしか音が聞こえる。
「ねぇ、その音……」
事が起こってからでは遅いので、確認を取る。
「この金属音っぽい音なら大丈夫ですよ。 ほら」
和ちゃんがこちらに手のひらが見えるように軽く手をあげる。
たしかに緑色に発光しているだけだ。
いや、だけっていうのもおかしな話だけど。
「早くしないと雑菌が……」
あまりに俺がモタモタするものだから、和ちゃんが慌てたように言う。
「けっこうグロいけど大丈夫?」
男子は某ゾンビゲームやら某一狩り行く系のゲームをやったことがある人が多いせいか、グロに耐性のある場合が多いけど、女子はグロに弱いことが多い。
「それなら、慣れてるので大丈夫ですよ」
和ちゃんがニコニコと微笑んで言う。
「慣れてる」という言葉に物凄い引っかかりを感じるが、何故かまだそれに触れてはいけないような気がした。
聞いたら、和ちゃんや潮さんのことを拒絶してしまいそうで。
半ば事故とはいえ、和ちゃんと交わした契約さえも脆く崩れさってしまいそうで。
「そうなんだ」
思わず、当たり障りのない相づちをうってしまう。
とても聞けない。
根拠も何もないけれど。
たかだか1日ちょっとしか一緒にいないのに。
恐くて聞けない。
「夢幻さん、終わりましたよ」
和ちゃんが患部に翳していた手をどかし、教えてくれた。
目を向けると、傷口は綺麗に塞がっていた。
「私の能力の回復はおまけ程度なので、大きな傷は治せないですし精度もイマイチですけど、小さい傷なら治せますから、何かあったら言ってくださいね」
和ちゃんがほがらかな笑顔を崩さずに言った。
こんな笑顔を浮かべられるのに、何か黒い過去を抱えているのだろうか?
潮さんのような外傷は無さそうだが、だからといって精神的に傷を抱えていないと決まったわけではないのだ。
「うん、ありがとう」
自分でも分かるほどぎこちない笑みを貼り付けて、和ちゃんに微笑み返す。