複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.142 )
- 日時: 2012/03/25 20:58
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: pvHn5xI8)
- 参照: ユリア「ついにあたしの時代だ!!(`・∀・´)」な回。
「……潮さん?」
目を開けると、目の前に青年の顔があった。
自分の様子を見てみると、昨晩から借りている青年の布団で今の今まで眠っていたらしい。
ジャージは着てるから、さっきのが夢オチっていうことは無さそうだけど……。
「突然倒れたんで、心配したんですよ。 食欲はありますか?」
「うん。 ……今、何時?」
「ちょうど正午くらいです」
そう答えて、青年がすぐに部屋の外へ出る。
青年がまだ怒っているのかと思って少しビクビクしてたが、どうやら大丈夫らしい。
俺が病人だから、と気をつかっている可能性も十二分に有り得るけどね……。
とりあえず、時間は思ったよりも経っていなかった。
「おかゆでいいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
しかも、青年は気をつかってご飯まで出してくれるらしい。
ヤバい、惚れそう。
いや、一目惚れはもうしてるんだけどね?
『あっ、お兄ちゃん。 潮さんは起きたの?』
『ん? あぁ、今さっきな』
外からカチッというコンロのスイッチを入れた音と、青年とユリア嬢の声が聞こえた。
「潮さん、おはよう!!」
そんなことを考えつつ、ボーっとしていると、ユリア嬢と思わしき女の子が鳩尾目掛けてタックルしてきた。
……ユリア嬢以外にこんなことをしてくる人はいないと思うけど。
「潮さんが倒れた時は襲おうか本気で迷ったんだよ! 何であたしには生えてないんだろう、って本気で思ったんだから!」
……俺、何もされてないよね?
「知らないうちに……」みたいな展開は無いよね?
「…………何かしたの?」
念の為に確認を取る。
聞いた側からユリア嬢の目が物凄い泳いでるのは気のせいだと信じたい。
「なななな何もしてないよ」
なんて分かりやすい反応だ……。
何をしたかはもう聞くまい。
聞いたところで、ショックを受けるのは俺の方だろうし。
「でも、これだけは言わせて」
俺が溜め息をついた次の瞬間、ユリア嬢がいつもの強気な目よりもつり上がり気味で凛々しく堅い意志を表すかのように強く輝く光が宿った瞳で俺を見据えてから、間を置き、次の言葉を放つべく息を吸った。
「暗い過去を持ったイケメン、萌え!!」
…………今、シリアスな場面だよね?
しかも、カッと目を見開いて力説する内容ではないよね?
その前に、そのことを知っているっていうことは青年に聞き出したか、俺を脱がすかしたってことだよね?
「しかも、潮さんがノーパンだなんてうふふな状態だったから、鼻血が出ちゃったんだよね」
「それは青年がジャージしか出さなかったから、そういう趣味なのかなぁ、と思って……」
最初の話はまだ脳内をぐるぐる回っていてまとまらないから、後者についてだけ答える。
とりあえず、青年に聞き出したんじゃなくて俺を脱がしたことだけは分かった。
傷だらけの身体を見ても、全く動じないどころか「萌え」という言葉まで出してきたパターンは今までいなかったし、類似パターンも全くない。
どう答えて良いか分からない。
それどころか、自分でも自分がどう考えているのかがよく分からない。
「潮さんは健気だねぇ。 まぁ、お兄ちゃんは裸エプロンとかスリットが入ってるチャイナドレスとかのチラリズムが好きだから、あながち間違ってないかもよ」
ユリア嬢が指先をくるくると回しながらそう言った。
…………青年はきっと隠しているつもりなのだろうが、全部だだ漏れになっているらしい。
もしかしたら、青年自身よりもユリア嬢の方が彼について詳しいのでは無かろうか。
「…………なんで知ってるの?」
ユリア嬢との会話に神経を集中させていたせいもあって、扉のところに立っていたらしい青年に全く気がついていなかった。
その手には、しっかりとお粥がはいったお椀がある。
……声には出さないけれど、なんかごめん。
「あ、お兄ちゃん。 早くお粥持ってきて」
青年のナイーヴな秘密を暴露した張本人は白々しくそう言った。