複雑・ファジー小説

命短し、闘れよ乙女!! ( No.170 )
日時: 2012/04/19 05:38
名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: Y023kLiG)
参照: 潮「長い……壁|ω・`)」な回。

「じゃあ、バイバイ☆ 名前も知らないか弱い人☆」

こちらも彼女のノンブルも名前も知らないんだけどねぇ……。
正直なところ、知りたくも無い。
知ってもしょうがないし。

「【紅穿こうが】☆」

こちらがあからさまに嫌な表情をしているのに気がついていない彼女が、先程の青い波動よりも範囲が広い波動を左手の平から放つ。
波動の方は武器の性能ではなく彼女の能力だったらしい。

とりあえず、さっきの攻撃でわざわざ他の技を使ってきたことから、この波動は幻覚ないしは威力の無いものだってことは察したんだけど……。

「諦め悪そうだなぁ……」

俺がそう呟いた途端、彼女が間髪入れずに斧を構え、地面を思い切り蹴って、踏み込む。
本人的には速いと思っているんだろうけど……。
このレベルならば、『ブルジェオン』に補助的に与えられている式神のようなものの強い個体の方が強いのではないだろうか。
彼女が持っているのは研究者が無駄に高い技術を集結させて造った機械だけど、オリジナルの4匹に関しては研究者は見ただけだからか強さの指数に関しては未知数扱いにされている。

その中の一匹を持っているのは他ならぬ俺だけど。
その子がいれば、その子に任せて俺は逃げるという手が使えたのだが、あいにく身代わりとして神社に置いてきてしまった。

その手は使えないから、自ら戦うしかない。

少しでも有利になるように、俺の足元から半径3メートル程度に薄い氷を張る。
それと同時に、右手にいくつか氷柱を発生させ、相手に投擲する。

「あれ? 弱っちいけど、戦闘能力はあるんだね☆」

彼女は上空へ跳ぶことで、いとも容易く氷柱を避けてみせる。

氷柱は何らかの形で防がれるなりかわされると思っていたから別にいいんだけど、まさか跳んでくれるとは。
上空に追い詰めるところから始めようと思っていたんだけど、手間が省けた。

今度はさっきのものより大きな氷柱を発生させ、彼女に向けて放つ。

「こんなの素手で防げるよ☆」

彼女は言葉通り素手で氷柱をはたき落とそうと手をかざす。

「爆ぜろ」

俺の言葉と同時に氷柱が爆ぜる。
本当はこんな言霊を発する必要は無いのだが、他の子達には必要だから相手に揃えてみる。
よくよく考えてみれば、地面を凍らせた時や氷柱を発生させた時も宣言してあげればよかったなぁ……。

俺がそんなくだらないことを考えている間に氷柱は彼女の目前で爆ぜる。
氷柱ではなく、氷柱をはたき落とそうとしていた彼女の右手が地に落ちる。
断面から血が滴り落ち、コンクリートの上に張った薄い氷にどす黒いシミをつける。

このまま氷を消して血がコンクリートについてしまう。
それは頑張って道路を作ってくれた作業員の人達に申し訳ないから、後で氷に巻き込んで適当に捨てておこう。

「痛い……痛いよ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」

無くなった右手をおさえながら彼女が吼える。
痛いって言ったってそんなに騒ぐ程じゃないだろうに。

でも、ノンブル5以下の『ブルジェオン』は俺から見たら妹や弟みたいなものだし、本当はあまり傷つけたくない。
殺し合って欲しいとも思わない。

ここまでやっておいて今更という気もするけど、いたずらする子にはお仕置きくらいしなくちゃ、と思って始めたはずなのに、傷つけられた時に感情が昂り、やり返してしまった。

それにしても、やっぱり、感情が不安定なのは問題だなぁ……。
少しずつでも、落ち着いていかないと。

「じゃあね、俺はさきに行くから」

痛みに慣れていない彼女のことだ。
どんなに早く見積もっても1時間は動けまい。

妹への優しさを込めて、傷口は固めてある。
腕一本落としたから痛いだろうけど、失血死やショック死の線は無くなった。

「あっ、そうだ。 研究所にその腕を持って行けばすぐにくっつけってくれると思うよ」

さすがにやりすぎたかな、という反省の気持ちも込めて、アドバイスも残しておく。
うん、やっぱり、腕を落としたのはやりすぎた。

後、聞かなくちゃいけないことが1つだけあるんだよね。

「君、名前とノンブルは?」
「ノンブル86、振霧しんむ

質問を投げかけると、間髪入れずに彼女が答えてくれた。

この子は研究者に凄い名前をつけられちゃったみたいだけど、本人は気にしてないのかな……?