複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.173 )
- 日時: 2012/04/24 06:45
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: 5o4jXN6y)
- 参照: 夢幻「主人公は俺のはずなんだけど……(´・ω・`)」な回。
「あら、おかえりなさい」
初図が待っている神社へとたどり着くと、玄関先でいつも通り巫女服、腰の辺りで1つに束ねられた艶やかな黒髪、優しげに垂れた茶色がかった黒目が印象的な女性が掃除をしていた。
彼女は美人ではあるし、比較的常識人なのだが、いつも暇さえあればお茶を飲むか外の掃除をするか、という変わった人だ。
「ただいま。 初図が泣いてるって、留守電に残ってたから……」
青年が引きこもった後に留守電が入っていることに気がつき、再生してみたところ初図の泣き声というBGM入りの留守電が入っていたのだ。
あの感じだと、くくりもいじけてるんだろうなぁ……。
「むいっ!もきゅもきゅ!(潮しゃま! またボクのこと捨てようとしたんでしょ!)」
玄関の扉を開けると、濃いめの水色のもふもふしたくなるような毛並みの良い小さい獣が俺の鳩尾目掛けて、タックルをかましてきた。
ユリア嬢もそうだったけど、どうしてみんなして鳩尾を狙ってくるのだろうか。
「捨てようとしたことなんてないよ? 今回も、『留守番してて』って言ってからでかけたでしょ」
巫女服姿の彼女のことを変と言ったが、彼女に言わせれば、「貴方もたまに散歩に出て、ちょっと日当たりのいいベンチで寝る、という趣味はおかしいと思いますよ」と冷たく返されたことがある。
確かに好きではあるが、それを趣味にしたことはない。
「むきゅーふっ!(そう言って帰ってこなかったこともあったでしょ!)」
水色の獣——改め、俺の『フォイユ』であるくくりが大きな声を上げる。
ちなみにこの子達の声は普通の人間には「むいっ」などという鳴き声にしか聞こえないが、ブルジェオンとパピヨンにはその鳴き声と共に直接脳に響くような形で人間の言葉が聞こえるというシステムらしい。
つまり、くくりの声は俺や青年、和には通じるが、ユリア嬢には通じないのだ。
「そうだっけ? ごめんね」
とりあえず、地面を転がりながらいじけているくくりに謝り、抱き上げる。
くくりは手足が短いから歩くのが遅い。
飛ぶことが出来るから、本当はわざわざ持ち上げてあげる必要は無いのだが、町中でそんなことをさせるわけにはいかないから、常日頃から癖付けているのだ。
さすがに面倒くさいから家の中では飛んでもらってるから、抱きかかえているのは散歩の時とか庭に出ている時くらいなんだけどね。
「もいー……もっきゅむきゅ(しょうがないなぁ……、今度はおいていかないでね)」
俺の腕の中でくくりがそう言う。
くくりは俺に似ずに素直で人懐っこい。
お菓子を餌にされようものなら、知らない人にもホイホイついて行ってしまうだろう。
「くくりがうるさくて起きちゃったよー」
玄関の奥の部屋から茶髪と髪と同じ色の犬耳と尻尾がはえた少年が顔をのぞかせる。
青い瞳に俺の姿が映ると、パアッと顔を輝かせてこちらへと駆け寄ってきた。
これはタックルフラグだろうか。