複雑・ファジー小説

命短し、闘れよ乙女!! ( No.190 )
日時: 2012/06/11 21:44
名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: L3t15YTe)
参照: くくり=和

「秘密」

潮さんが唇に指をあてて、サインをしながら、そう言った。
そして、財布の裏側から電子マネーを取り出し、アイスの自動販売機の読み取り部にかざし、ボタンが光ったあとに、レモンシャーベットのボタンを押し、出てきたアイスを取り出す。

「先に戻ってるね」

潮さんがアイスを持っていない方の手で、こちらに手を降り、俺たちが住んでいる106号室の方へと歩いて行った。

「なんで潮さんは買えたんですか?」

電子マネーがクレジットカードに見えたのか、和ちゃんがクレジットカードを読み取り部に翳してみている。

俺は、天然というか、ちょっとぬけている女の子にグッとくるから構わないが、普段こんなじゃ、現金を持っていたとしても全額落としちゃいそうだ。
研究所はその辺は考えてクレジットカードを持たせているのだろうが、本当にそれで正解だろう。

—*—*—*—*—*—

「もいーっ」
「プルァァァ!」

あのまま自動販売機を壊されたら困るから、和ちゃんにアスパラガスの峠を買い与えて、106号室に戻ると、俺の部屋からこの世の生き物とは思えない鳴き声が聞こえた。
部屋の扉を開けた瞬間に、特撮に出てくるような怪物が飛び出してくるとか、そういうことはないよね……?

「この子は可愛いなぁ」
「もいっふ!」

どうやら部屋の中にはユリアもいるらしい。
どうせ部屋の中にある潮さんが着ていたものを盗みに来ていたのだろうが、そこにいた何かに目移りしてしまったようだ。

ユリアがいるなら怪物がいるなんていうことは、部屋に怪物がいるっていうことは無さそうだし……。
いや、ユリアが怪物という解釈も出来なくはないけど。
そう考え、部屋の扉を開ける。

「もいっふる?」
「プリウァ!!」

中にはユリアと、濃いめの水色の綺麗なけづやをした見たことのない丸っこくて手足の短い生き物、それからムダに手足がスラッと長くて耳も長い二足歩行をしているうさぎがいた。
水色の方はものすごく可愛いが、うさぎの方は表情がドヤ顔ということもあって、見てるだけで腹が立っていく気がする。

「おかえりー。 お兄ちゃんとかこの子達が騒がしくて起きちゃったんだけど、この水色の子が可愛いから許す」
「もいーふっ!」

無駄に凛々しい表情のユリアに抱きかかえられた水色の丸っこい生き物が誇らしげな表情で右手をあげる。
手足が短いというところにも、この生き物の可愛らしさを感じる。

「プルァァァ!!」

さっきから全身全霊をかけてスルーしていたドヤ顔うさぎが、俺の足にしがみつく。
少なからず予測していた展開だが、実際すり寄られると言い表しがたい気持ち悪さを感じる。

「……死ね」

足元のドヤ顔うさぎが俺にだけしか聞こえなさそうな声量でボソッと呟いた。
というか、普通に人の言葉を話すことが出来るなら、最初からそうして欲しい。

「もいふーっ!」

そんなことは露知らず、ユリアに撫でられた丸っこい生き物が嬉しそうにそう言った。
クレジットを持っている潮さんや和ちゃんはいいが、ユリアを養わなくてはいけない身なのだが、この丸っこい生き物のためなら食費を切り詰めてでも飼いたい、と思うほどに可愛い。
もう本当に可愛い。
具体的にいうと、和ちゃんと同じくらい可愛い。