複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.20 )
- 日時: 2011/08/22 22:07
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: yjIzJtVK)
「お部屋、広いですね」
和ちゃんは、俺の部屋に入ってすぐにそう感想を述べた。
確かに、我が家は本来、妹、母、俺の家族3人で暮らす予定で借りたため、そこそこ広い。
おかげさまで、風呂とトイレも別だし、キッチンもそれなりに設備が整っている。
更に、リビング以外の部屋が3つもあるのだが、母さんに「リビングは使っても構わないけど、他の部屋は1つ以上使うなよ」と釘を刺されているので、俺は一番奥の部屋しか使っていないけどな……。
それでも、俺の上京後の住居候補だった、駅から微妙に遠い距離にある風呂無しのボロいアパートよりは格段にマシだろう。
「部屋も片付いてますし、何かお手伝いすることは……」
和ちゃんがピンク色のツインテールをうさぎの耳のようにピョコピョコと揺らしながら、リビングを一通り見回す。
そして、部屋の奥に向かって、パタパタと小走りで向かい、そこから再び部屋を見回す。
そんなにじっくりと観察しても、何も出てこないと思うんだけどなぁ……。
「和ちゃん、とりあえず、あんまり暴れないでね? 下の階の人とかから苦情が来ちゃうから」
今にも走り出して、その辺を片っ端から物色せんばかりの勢いで辺りを見回している和ちゃんに、あらかじめ注意をしておく。
いつになるかは今のところ未定だが、母と妹が戻って来ることを考えると、ご近所さん達との関係は極力良く保ちたい。
ちなみに、俺も妹も母さんの私生児であるため、父はいない。
正しく言うと、ちゃんと誰が父親かは把握してあるらしいのだが、母さんに尋ねるとあからさまに嫌そうな顔をしてくるから、「もう聞くのは止めよう」と決意した記憶がある。
「あっ、はい! すみません……」
リビングの方向から、俺がいるキッチンの方向にくるっと回転した和ちゃんが、軽く頭を下げる。
うーん……やっぱり、メリケンサックは怖いけど、女の子が落ち込んでいるのを見るのは好きじゃないなぁ。
「いや、多少なら大丈夫だよ。 はい、とりあえず、お茶をどうぞ」
落ち込んでいる和ちゃんをフォローしながら、冷たい麦茶が入ったコップをリビングの中央に設置されている大きめなテーブルの上に置き、椅子に座る。
テーブルも家族用でそこそこ大きいため、1人で食事をしている時には、気楽さと同時に、少なからず寂しさも感じる。
「あぅ……。 何故か私がお世話になってしまっていますね」
和ちゃんが、俺が座っているのと同じタイプで、テーブルのすぐ近くにある木目調の椅子に座り、麦茶の入ったコップにメリケンサックが装備されている華奢な指を添え、苦笑する。
メリケンサック装備というオプションに関しては、笑えないどころか苦笑することさえも難しいが、あえて触れないでおこう。
……というか、もう見ないようにしよう。
そして、和ちゃんがそのコップを口に運び、中身である麦茶をゴクゴクという豪快な音を立てながら一気に飲み干す。
さっき、「お腹が空いた」と言って倒れたことを思い出し、和ちゃんの分の麦茶を多めに入れたのは正解だったらしい。