複雑・ファジー小説

命短し、闘れよ乙女!! -episode of zero- ( No.206 )
日時: 2012/07/23 21:01
名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: L3t15YTe)
参照: 夢幻「全体的に解せぬヽ(`Д´)ノ」

「潮、こんな甲斐性なしで不能な『パピヨン』もどきなんかにかかずらってないで、戻ってきてください」

ユリア嬢が「お兄ちゃんがいないところの方が話がしやすいよ」と、彼女の部屋で2人っきりにしてくれたお陰で開口一番に、寧々が本音を言う。

「青年は不能じゃないし、不能だったとしてもそっちは使わないから大丈夫」
「まぁ、使う日は一生来ないでしょうけど……」

何故か本題とは関係ないところで意見が一致したのだが、これに関して、寧々と同じ考えだったからと言って、いいことがあるわけではない。

「もいっふる、もいゆー(潮しゃま、抱っこしてー)」
「はいはい」

空気を読まないくくりを抱き上げて、あぐらの真ん中に置いておく。
全然抱っこではないが、くくりは満足してくれたようだ。

「それと、初図からの連絡です」

そう言って、真面目な表情を浮かべた寧々が言葉を続ける。

「『あと、5時間』、だそうですよ」
「早くない?」
「善は急いだ方がいいに決まってます」

初図からの急なメッセージに思わずため息が出る。
この間、神社に行った時に「もうすぐだ」ということは聞かされていたが、まさかこんなに早いとは思っていなかった……。

「じゃあ、俺も行くよ」
「もいっふるもいるー!(潮しゃまが行くならボクも行くよ!)」

俺の返事に続いて、くくりが勇ましく返事をする。
表情も心なしかいつもよりも凛々しく見えないこともない。

「いえ、くくりは来なくても……」
「もゆっ!?(えっ!?)」

あっさりと断られたくくりが、俺に顔をうずめてさめざめと泣き始める。
正直、いくら愛玩動物といえど、股に顔をうずめるのはどうかと思うんだけどなぁ……。

くくりにトドメを刺すまいと引き剥がしたい気持ちを押し殺して、寧々と相談を続けていると外から扉をノックする音が聞こえてきた。
ユリア嬢がお菓子とお茶を淹れて持ってきてくれたらしいので、扉を開ける。

「どうぞー」
「あら……そんなに気を遣わなくても大丈夫ですのに」

お茶とちょっと高そうな包み紙に包まれたお饅頭が乗ったお盆を置いたユリア嬢に、寧々が目を輝かせながら遠慮の言葉を言う。
言葉と態度が全く一致していない。

というか、他人の家に勝手に上がり込んで、無断でお茶を飲んでいた人が言う言葉ではないだろう。

「いえ、お兄ちゃんに良いお菓子を食べられのも癪なので、是非食べてください」
「理由が……」

どうやら、このお饅頭はユリア嬢が上京してくる際に「夢幻の糖分」と言って、親が持たせてくれたお菓子だったらしい。
道理で、ちょっと高そうなちゃんとした包装をされている訳だ。