複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.33 )
- 日時: 2011/09/05 16:27
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: yjIzJtVK)
「ねぇねぇ、それで、この可愛い子はどちら様な訳〜? 彼女……だとは思えないけどさ」
相変わらず、ニヤニヤと笑っているユリアが尋ねてくる。
思い切り貶されたが、この際、それについては気にしないことにしよう。
……しょうがない。
和ちゃんの存在がバレてしまった以上、どう弁解しても面白可笑しくはやし立てられるのがオチだろう。
こうなったら、腹をくくって正直に伝えるしかない。
「俺にも分からない」
ユリアの目を見据え、正直に伝える。
チラッと和ちゃんの方を見やると、キョトンとした表情のまま、麦茶が入っていたコップに一緒に入れておいた溶けかけている氷を噛み砕いていた。
和ちゃんは可憐で清楚な外見に似合わず、性格や行動はワイルドみたいだな……。
「え? まさか誘拐!? 警察沙汰になっちゃうレベルの話なの!?」
ユリアが当たり前と言えば当たり前な方向に勘違いする。
「違う」
犯罪者扱いされてはたまらないので、しっかりと否定しておく。
誘拐されているのだとすれば、和ちゃんはこんな風に氷を噛み砕けるような状況に無いだろうし。
「ふーん……」
ユリアが納得してるんだかしてないんだか分かりにくい表情で、おもむろに和ちゃんの方へと歩み寄る。
そして、和ちゃんの対面にある椅子に腰掛ける。
そこは俺が座っていた場所だと主張したいのは山々だが、そんなことを言える立場にないから、黙っておく。
「お兄ちゃん、あたしにも冷たい麦茶淹れて。 後、この子の分のおかわりも!」
ユリアが和ちゃんのコップを俺に渡しながらそう言う。
和ちゃんはというと、何がなんだか分かっていないのか、頭に疑問符を浮かべている。
「うん、分かった」
ちょうど自分も飲みたいと思っていたところだし、断る理由もなかったため、和ちゃんのコップを持って、再びキッチンへと足を踏み入れる。
「明日作るの面倒くさいな」と思って、昨日のうちに麦茶を多めに作っておいて正解だったな……。
「あっ、お兄ちゃん! いくらこの子が可愛いからって、うっかりを装って自分のコップと入れ替えちゃダメだよー?」
ユリアが再びニヤニヤとした笑みを浮かべて、キッチンの方に上半身だけを向けて言う。
「替えねぇーよ」
そもそも論、俺にそんな大それたことを実行できる勇気があると思ったら大間違いだ。
「えー! じゃあ、不能なお兄ちゃんに替わって、あたしがその子のコップで飲むー」
ユリアが和ちゃん本人を目の前にして、さらっとセクハラ発言をしてみせる。
不思議と俺よりもユリアの方が数倍犯罪者っぽい気がしたのは、俺だけではないはずだ。
『ほらー、お前が優柔不断だから妹に先を越されるんだ』
やっと黙ったと思っていた心の悪魔が、溜息混じりの呆れたような声音でそう言う。
この声が聞こえると、多少とはいえ、本当に惑わされそうになるから怖いな……。
『そうだよ! 今からでも遅くないから、コップを入れ替えるんだ!!』
悪魔に加勢せんと天使も一気に捲し立てる。
誰よりも危険なのは、俺の深層心理内に潜む天使だな…………。