複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.34 )
- 日時: 2011/09/11 09:57
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: yjIzJtVK)
「ねぇねぇ、あなたの名前は?」
麦茶と氷を3つのコップに淹れてからキッチンを出て、リビングへと踏み入れるとユリアが和ちゃんに話しかけていた。
ユリアは小さい頃から人見知りも物怖じもしない性格で、クラス替えなどをした時には、一番最初に動き出し、友達百人どころか友達千人出来るかな、というくらいの勢いで色々な人に話しかけに話しかけていた。
そんなサバサバとした裏表のない性格と無駄にキレイな外見のお陰か、男子からも女子からも人気があったらしい。
とりあえず、コップを2人の前に置き、自分も空いている席へと腰掛ける。
「和です」
「名字はー?」
「無いです」
……え? 無い?
聞き間違いか……?
「そっかー、名井さんかー」
ユリアは勝手に納得しているようだが、あまりにも納得いかないから、もう一度聞いてみよう。
「和ちゃん、名字は?」
「無いです」
ニコニコと柔和で優しげな笑みを浮かべた和ちゃんが答える。
……どうしよう。 本当はもう一度聞き返して確認しようと思っていたのに、この優しげな笑みのせいでものすごく聞きづらい。
聞くは一時の恥、とかいうことわざを作った奴はチキンなやつのことを考慮にいれてくれなかったようだ。
「そういえば、ここに来る途中にも名井さんって人にあったんだけど、知り合い?」
ユリアが右の人差し指を自らの顎に添え、左の人差し指を空中で円を描くようにくるくると回す。
この円を描くように指をくるくる回す動作は何かを思い出す際に、ユリアが行う昔からの癖だ。
「その方、どんな人でしたか?」
何か心当たりがあるのか和ちゃんがユリアに詳細を尋ねる。
そして、ユリアが指をくるくると回しながら、その質問に答え始める。
「えっとねー、性別は男で、見た目がその辺のモデルよりもカッコよくて、詳細はよく分からないんだけど、空腹で倒れてたんだよ」
…………空腹で倒れた辺り、和ちゃんの知り合いである可能性はかなり高いだろう。
「その方、多分、私の知り合いです! その方はどこら辺にいましたか?」
突如として、和ちゃんが椅子から立ち上がり、生き生きとした表情でユリアにその知り合いと思わしき人の所在を問いかける。
「一時間くらい前に、ここから一番近くの公園にいたよ」
ユリアが指をくるくると回し続けながら、そう答える。
この辺りでまともに子供の遊び場としと機能している公園は2つしかないのだが、ここから一番近いというと堺公園のことを指しているのだろう。
その公園は、大きなすべり台が3つあるという特徴がある、そこそこ広い公園だ。
「こ、公園……?」
さっきまで嬉々としていた和ちゃんが少し困ったような表情になる。
「すみません、その公園までの道が分からないので、案内していただけませんか?」
和ちゃんが俺とユリアに向かって、うさぎのような活発さと可愛らしさを感じさせるピンク色のツインテールを揺らしながら頭を下げ、頼んでくる。
「そうだな。 じゃあ、堺公園に行くか」
「いいよ、いいよー!」
俺のみならずユリアも快諾してくれたため、財布等などの最低限必要なものだけを普段使っている茶色のショルダーバッグに入れて、玄関を出る。
和ちゃんは身一つ状態だからか、男の俺よりも早く準備を終え、玄関の扉の前で落ち着かない様子で左右へとウロウロしていた。
やっぱり、その知り合いかもしれない人が気になるんだろうなぁ……。
「二人とも準備早くない!?」
ユリアが髪を梳かしたりしていたのか、洗面所から財布や携帯が入っていると思わしき薄ピンク色の小さめなハンドバックを持って現れる。
……そうか、さっき言っていた、和ちゃんの知り合いと思わしき人がカッコよかったから、めかしこんでいこうとしているのか!
俺が気がつかないうちに、ユリアもだいぶ成長していたらしい。
「準備できたなら行くぞ」
2人にそう声をかけて、ドアチェーンを外し、家の扉を開ける。
和ちゃんが会うのを楽しみにしている知り合いっていうのが、どんな人なのか段々と気になってきた。