複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.40 )
- 日時: 2011/09/15 18:18
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: yjIzJtVK)
- 参照: ノンブルとは……フランス語で番号、という意味。
「それでは、いざ、尋常に!!」
次の瞬間、和ちゃんがハキハキとした大きな声でそう叫び、メリケンサックという名の凶器が装備されている拳を思い切り振り上げ、ベンチに座ったままの薄青の髪の人の鳩尾目掛けて拳をぶつけようと構える。
「何だかんだでメリケンサックは使わないし、大丈夫なんじゃないか」と思っていた10分前の俺の考えを返して欲しい。
「危なっ……」
薄青色の髪の人に危険を知らせようとしたが、それはあまり意味を成さなかった。
何故なら、薄青色の髪の人は俺の言葉を聞く前に寝起きの気だるさを垂れ流しにしたまま立ち上がり、上体を右にずらすことで軽々と和ちゃんの拳を避けて見せたからだ。
和ちゃんの拳は明らかに素人のそれではない威力とスピードが出ていたのだが、それを避けた薄青色の髪の人も相当な玄人としか思えない動きだった。
「拳を放った後の隙が大きい。 こんなんじゃ、すぐに『帰され』ちゃうよ?」
薄青色の髪の人が左手で前髪をかきあげながら、余裕綽々な態度で、和ちゃんにダメ出しをする。
「はぁっ!」
薄青色の髪の人がしゃべり終わった直後、和ちゃんが初発よりも勢いをつけて二発目の拳を放つ。
こういった喧嘩ごとやスポーツに関わったことのない俺に和ちゃんの拳があたったら、一瞬で御陀仏決定間違いなしのスピードがでている。
それでも、しゃべり終わるまで待つあたり、和ちゃんは最低限の配慮はしているらしい。
……いきなり殴りかかったのも和ちゃんだけどな。
「だから、隙が大きいってば」
薄青色の髪の人が、上空に跳躍し、和ちゃんの二発目の拳も軽々とかわす。
そして、空中で体勢を調整しながら一回転し、和ちゃんの背後に着地。
目にも留まらぬ早さで和ちゃんの背中に透き通った薄水色の刃物と思わしきものを突きつける。
「ほら、こんな簡単に背後を取れちゃった。 『ブルジェオン』やその契約者の中には色欲狂いだとか戦闘狂もいるんだから、気をつけなよ」
薄青色の髪の人が、和ちゃんの背中につきつけている透き通った薄水色の刃物を握りつぶす。
すると、パリンッという小気味の良い音を立てて、手のひらから水とキラキラと輝くガラスのような物体が零れ落ちているのが見えた。
あれは……氷か?
「自然タイプの能力持ちだったんですね! 珍しいです!」
和ちゃんが目を輝かせながら、後ろを振り返り薄青色の髪の人と顔を突き合わせる。
和ちゃんの顔に浮かぶ表情は、さっきまで、メリケンサックをつけた拳で殴りかかったり、背中に刃物のような鋭利な物体を突きつけられていたとは思えないくらいに無邪気な笑顔を浮かべている。
「うん、その通りだよ。 俺は『ブルジェオン』ノンブル4の潮。 よろしくね」
律儀にも名乗ってくれた潮さんが柔らかに笑い、和ちゃんに挨拶をする。
「一桁……強いわけですね。 私は『ブルジェオン』ノンブル16、和です」
和ちゃんも礼儀正しく頭を下げて、挨拶を返す。
漫画とかでさえも、こういった挨拶は闘い始める前に交わすものであるはずなのに、事後っていうのはどうなんだろうか……。
「この青年達は君の契約者?」
潮さんがタンッと軽く跳躍すると、人間の一歩ではたどり着けないような位置にいたはずの俺達の目の前に着地し、和ちゃんに問いかけた。
殺気や攻撃的な意思は伺えないが、人間に不可能な動きをしたりしている以上、絶対に安全だとは言い切れない。
「違います! 違いますけど、これからお世話になる方です!」
…………なんで未来形になってるんだ?