複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.55 )
- 日時: 2011/10/29 20:34
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: Hfcg5Sle)
- 参照: 久々の更新なのぜw
そんな無茶ぶりに対しても、和ちゃんは動じることなく応えてみせる。
よく話が掴めないままの俺が投げた適当な軌道上にある氷の華を、目にも止まらぬ速さで打ち砕いてみせたのだ。
本当に見えないほど速くて、何が起こったかが全く把握できなかったんだが……。
「青年」
和ちゃんが超人的な技を放った後、すぐに真面目な声で潮さんに呼ばれた。
「はい」
普通に返事をする。
確かに和ちゃんの拳の力は凄まじかったが、メリケンサック装備の時点で戦闘力や破壊力が高いということを察してはいたため、あまり驚愕の感情は湧いてこない。
「とりあえず、俺たち『ブルジェオン』が超人的なのは分かった?」
潮さんがさらに問いかけてくる。
「よく分かりました」
俺の返答を聞き、潮さんが満足そうな表情でユリアの方を向く。
「ユリア嬢は?」
そして、ユリアにも俺に聞いたそれと同じことを聞く。
ユリアは一瞬逡巡した後に、コクリと頷いた。
「……うん。 じゃあ、詳しく話そうか。 とりあえず、和とユリア嬢はちょっとだけ後ろを向いててもらえる?」
潮さんの要求に、和ちゃんが「はいっ! 分かりました!」と無駄に元気な声で返事をして、うさぎの耳のようなツインテールを揺らしながら半回転する。ユリアも少し戸惑いながらも和ちゃんの向いている方向に体全体を向ける。
「俺がいいって言うまでは、振り向かないでね? 逆に、青年はどんなに辛くても目を逸らさないでね」
「は、はい」
……「はい」という返事はしたものの、これから何が起こるか分かって無いんだよなぁ。
未知のことが起こりそうな予感のせいで、心臓が高鳴る。
そんな俺を後目に、潮さんがスーツのジャケットを脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンも外し始める。
えっ!? どういうことなんだ!?
本当に何が起こっているか分からないぞ!?
「……襲ったりはしないから安心して」
パニック状態にある俺を落ち着かせようとしてくれているらしい潮さんが優しげな声で喋りながら、ワイシャツのボタンを外し終え、やはりそれも脱ぎ捨てる。
「……ッ!!」
潮さんの素肌を見て、思わず悲鳴が漏れかける。
潮さんの身体には大量の傷痕があった。
擦り傷や火傷などという軽いものではなく、明らかに人為的に作られた切り傷やそれを無理やり塞ぐためと思わしき縫い痕。
肉を抉られた痕、何度も何度も執拗に鈍器で殴られたかのような痣。
しかも、そんな目も当てられない酷い傷がこれでもかというほどに広がっている。
前方から見ているため、実際のところどうなのかは分からないが、恐らくは背中も——。
いや、上半身だけではなく、服で隠しづらい顔や手首より先以外は全身に同じような傷が大量に存在しているのだろう。
右手で口を抑え、吐き気と悲鳴をこらえ、言われた通りに、必死に潮さんから目をそらさないようにする。
「…………青年は強くて優しいね。 俺の体を見ても意識を保っている上に、目をそらさないでくれる」
潮さんが悲しさ半分嬉しさ半分と言ったような複雑な表情を浮かべる。
「う、潮さッ! 何がどうなったらッ」
吐き気と思考の混乱のせいで上手く舌が回らない。
「一口に『ブルジェオン』と言っても、俺から前と俺から後ろは訳が違うんだよ」
潮さんが今にも泣き出しそうな震えた声で語る。
このまま、詳しく話し始めたら、まず間違いなく潮さんは泣き出すだろう。
そもそも、俺やユリアがその話を受け入れられるかと聞かれたら————
間違いなく、否だ。