複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.58 )
- 日時: 2011/11/03 22:24
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: Hfcg5Sle)
- 参照: 和はいつでもどこでも空気を読まないのがポリシーです(`・ω・´)(キリッ
だから————。
「『まだ』、話さないでください」
目に涙を湛えた潮さんに強い意志を含めた言葉を、言い放つ。
その言葉にうつむき気味だった潮さんが、ハッと顔を上げる。
「『まだ』……?」
潮さんが、僅かに潤んでいる色っぽい瞳に疑問の色を揺らめかせる。
「はい。 ですから、もうしばらくは此処にいてください。 その上で——潮さんのことを少しでも分かった時に、話を聞かせてください」
潮さんに俺なりの答えを答える。
「夢幻さんの言うとおりですっ!」
潮さんとは似て非なるが同じ『ブルジェオン』として、うっすらと状況を察した和ちゃんが、鈴のように綺麗で可愛らしい声で元気よく言い放つ。
そして、こちらに向かうため回転しようと構える。
……ん? もしかして、和ちゃんは潮さんに言われたことを忘れて振り返ろうとしてるんじゃねぇーか……?
案の定、和ちゃんが左足で床を軽く蹴り、反対の右足を軸にして回転する。
ど、どうすればいいんだ!?
とりあえず、一時的な急場しのぎだけど——!!
「青年?」
俺の奇行に潮さんが戸惑いの表情を浮かべる。
まぁ、そりゃ、今日会ったばかりの男に自分が半裸の時に抱きつかれたら驚くよなぁ…………。
でも、これで一応は傷を隠せるわけだし、後で弁解すれば分かってもらえるだろう。
だが、願わくば、勘違いしそうなユリアにだけは振り返らないでもらいたい。
「……あれ?」
振り向いた和ちゃんがキョトンとした表情を浮かべる。
そして、一瞬だけ逡巡し、後ろを向いているユリアの肩を軽く叩く。
「どうしたのー?」
潮さんの言うことを遵守し、振り向かずに和ちゃんに声をかける。
ユリアは、昔から是が非でも約束を守るタイプだったが、今も全く変わってないなぁ。
「お二人がユリアさんの好きそうなことをしてますよ」
……うん、嫌な予感が的中してしまったよ。
和ちゃんの言葉によって揺さぶられた好奇心と潮さんとの約束の間で揺れ動いているらしい。
「……ごめんね、潮さんがいいよって言うまでは振り向かないよ」
葛藤の末、約束を守るというポリシーが勝ったようで、ユリアは振り向かなかった。
我が妹ながら、素晴らしい精神力と忍耐力だと思う。
「うあー、でも、見たい……。 お兄ちゃん、写真撮っておいて!!」
「ムリだからな!?」
最終的に不思議なところに着地したユリアの要求を断る。
潮さんが隠している傷痕を写真に収めるなんてマネはしたくないし、そもそも、両手が塞がっているし。
「和ちゃんは向こうを向いてて」
不思議そうな顔をする和ちゃんをユリアと同じ方向に向ける。
それから、床に落ちている潮さんのワイシャツを広いあげ、それを渡す。
「とりあえず、潮さんは服を着てください」
潮さんが少し不満そうな顔でワイシャツを羽織り、ボタンを止め始める。
それにしても、どうしてあんなに不満そうなんだろうか……?