複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.62 )
- 日時: 2011/12/11 16:47
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: DvMOJ6NL)
- 参照: ユリア嬢が覚醒したようです。
「夢幻さん、私相手にならいけますか?」
和ちゃんがメリケンサック装備の細い指を潮さんに押し倒された俺の指に絡ませる。
『うん! 間違いなくいけるよ!』
天使よ、お前には決別の意志を伝えたのにまた出てきたのか。
人が肯定したくないことまで勝手に肯定しやがって……!
「…………とりあえず、潮さんも和ちゃんも落ち着いてください」
カオスなことになり始めたこの場を落ち着かせるために二人を止める。
俺がそう言うや否や二人は、何故か床に倒れている俺の横で正座をし、姿勢を正す。
もしも、その対面に医者が座っていたならば、峠をさまよっている状態にしか見えないな……。
「と、言うと?」
潮さんが首を僅かに横に傾けながら言う。
「契約はしません。 条件が条件ですし……」
潮さんと和ちゃんに説明する。
潮さんに性的興奮をしろ、というのは無理難題だし、和ちゃんにするのは申し訳ない。
「有り得ない! 有り得ないよ、お兄ちゃん! こんな美少女と美青年に迫られてる美味しい状況でどっちも押し倒さないなんて! どんな不能だって、思わず押し倒しちゃうくらいに二人とも美しいよ!? そんなことも分からないなんて、私は妹として恥ずかしいッ!!」
ユリアが鼻血を垂らしたまま廊下から駆け込み、討論会にいたら相手が気圧されるほどの気迫でビシッと叫んだ。
息が荒いのは走って来たからだろう……きっと。
「いや、ユリア嬢の方が」
潮さんがユリアにツッコミを入れるべく口を開いてからすぐに、彼の頬へ立方体的な物体が飛来し、僅かに掠る。
立方体的な物体が壁にぶつかった墜落した潮さんの頬を見ると、小さな掠り傷からほんの僅かだが血が滲んでいる。
潮さんの頬に傷をつけた立方体的な物体に目をやる。
ガラスを突き破らずに屋内を攻撃することが出来るとは思えないが、2人を狙った他の『ブルジェオン』の犯行だったら……と思うと正直怖い。
「何か言った?」
俺が考察を始めたところで、ユリアがドスの効いた低めで他者に威圧感を与える声で言う。
「……なんでもありません」
そう言って、潮さんが蛇に睨まれた蛙のように萎縮する。
そして、衣替えの際にしまい忘れたソファの上に置いてある小さめで薄手の毛布を被り、和ちゃんの後ろに隠れる。
今までのリアクションからして、あまり動じていなさそうな和ちゃんだが、今回に限ってはカタカタと震えている。
まぁ、確かに明らかに人間業とは思えないスピードで『本』が投げられてきたらビビるよなぁ……。
本が床に落ちた今だから分かるのだが、これは————間違いなくさっき提示されたものとは違うBLコミックだ。