複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.8 )
- 日時: 2011/08/12 07:52
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: AzZuySm.)
- 参照: メリケンサック少女のこのレス最後のセリフ=爆弾発言。
「この大福、とても美味しいです!」
空腹で倒れてしまったメリケンサックの女の子に、スーパーで買った大福を与えたところ、かなり気に入ったらしく、1つ目を食べ終わるや否や2つ目を透明のパックから取り出し、ムシャムシャと食べ始めた。
賞味期限間近という理由で投げ売りされていた為、「今日のおやつか明日の朝ごはんにでもしよう」と思って買ったはずなのに、買ってから30分も経たない内に半分が無くなるという事態は流石に想定外だった。
満面の笑みで大福を食べる姿は、無邪気な子供のようで愛らしい。
しかし、大福を持っている両手の指には、無邪気の対極に位置するような凶器が装着されている。
「申し遅れました、私、和と申します」
メリケンサックの女の子——改め、和ちゃんは二つ目の大福を食べ終えた後、深々と頭を下げて、自らの名を名乗った。
「空腹で倒れたところを助けてもらった上、美味しいものまでいただいてしまって……」
和ちゃんが申し訳なさそうな表情で、薄いピンク色のツインテールを揺らしながら、今度は軽く頭を下げる。
「いや、気にしなくて大丈夫ですよ」
女の子に頭を下げさせ続けるような趣味は持ち合わせていないため、和ちゃんに頭をあげるように促す。
「で、でもですね」
和ちゃんが上目遣い気味に訴えてくる。
「気持ちだけで、充分ですよ」
気を使わせないように、表情筋が稼働できる限界まで柔らかい笑顔を作り、和ちゃんに言う。
傍から見て、ちゃんとした笑顔になっているかは疑問だが。
「うぅ……じゃあ、どうすれば……」
和ちゃんがラベンダー色の大きな瞳を僅かに潤ませ、上目遣い気味の姿勢のまま問うてくる。
やはり、見た瞬間に鼻血が噴き出しそうになるくらい可愛い仕草だが、俺の視界にはメリケンサックしか映らなくなりつつある。
「あの……どうして、そこまでお礼をしたがるんですか?」
単純に感じた疑問を彼女に尋ねる。
言ってから思ったのだが、初対面の人にこの質問は不躾だな……。
和ちゃんが不快に感じる前に謝って、今の質問を撤回しよう。
「えーと、実はですね……」
俺が撤回する前に、和ちゃんが、俺の疑問に嫌な顔一つせず答え始める。
メリケンサック装備とはいえ、彼女は可愛い上に、優しくて心も広いようだ。
話を聞かせてもらったところ、和ちゃんは「借りはきっちりと返したい」という主義なのだそうだ。
正直なところ、かなり眼福にあずかれたので、2個で40円の大福代よりも価値のある様なものをもらってしまっている気がする。
でも、それを和ちゃんに直接言うのは、いくらなんでもデリカシーってものが無いしなぁ……。
「うぅ、どうしましょう……」
和ちゃんが自らの口元に人差し指をあてて、再び考え始める。
ブリッ子のような動作なのに、不思議と媚びを売っているようには見えず、素直で可愛い印象を与える。
そして、どう足掻いてもメリケンサックが恐怖を与えてくれる。
「あっ!!」
何かを閃いたらしく、和ちゃんが両手をポンッと軽くたたく。
「あのっ!!」
「はいっ!!」
和ちゃんが大きな声を出したため、つられて俺も大きな声で返事を返す。
自分の大声が鼓膜に響いて、耳が少しばかり痛い。
「ご迷惑でなければ、お礼に貴方の身辺の世話をさせていただけませんか?」