複雑・ファジー小説
- 命短し、闘れよ乙女!! ( No.9 )
- 日時: 2011/08/13 20:07
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: AzZuySm.)
……落ち着け、落ち着いて考えるんだ、俺。
こんなに可愛くて、恐ろしい凶器を装備している子が、たかだか40円の大福の恩如きで、冴えない浪人生である俺の身辺の世話をしてくれるというのは、美味しい話すぎる。
実際どうなのかは分からないが「裏に何かがあるんじゃない」とか「これが噂に聞く詐欺か」とか色々と勘繰ってしまう。
今すぐにでも、友人に電話をして指示を仰ぎたいが、そんなことが出来る状況でもない。
一体、俺はどうすればいいんだ……!!
『そんなの答えは1つだろ? 部屋に連れ込んで、和ちゃんを押し倒して……。 後は言わなくても分かるよな?』
そんなことを考えていたら、頭の中——というか心の中に直接響くようにして声が聞こえた。
邪念よ、消え失せろ……!!
『おいおい、俺はお前の深層心理だぜ? いわゆる、心の悪魔ってやつだな』
自称俺の心の中の悪魔がご丁寧なことに、自分自身の説明をしてくれる。
ん? 悪魔がいるってことは、天使もいるはずだよな……。
だとしたら、ここは是非とも天使の指示を仰ぎたい。
『やぁ、俺は君の心の中の天使だよ』
一人称こそ「俺」のままだが、天使らしく、悪魔よりもだいぶ口調が柔らかい。
多少は、まともな回答が期待できそうだな。
『とりあえず、部屋に連れ込んでから押し倒せばいいんじゃないかな』
天使が無駄に清々しく爽やかな声で、悪魔と全く同じ言葉を発する。
ダメだ……!!
俺の深層心理は見事なまでに下心しか無いらしい。
「だ、大丈夫ですか?」
ガンガンという派手な音を立てながら、偶然近くに建っていた2メートル程度の高さの塀に頭を打ちつけ始めた俺に、和ちゃんが心配そうに声をかけてきた。
表情から察するに、「頭、おかしい人なのか?」という心配ではなく、「このまま続けると、額から血が出るんじゃないか」という方の心配のようだ。
こんなに純粋に心配をされると、さっきの天使と悪魔の言葉は深層心理で本能的に考えていただけとはいえ、今までの人生の中で1番といっても過言ではないほどの罪悪感を感じる……。
「大丈夫だ、問題ない」
必死に柔らかな笑顔を保ちながら、そう言う。
念のため、額に軽く触れてみると、少量の赤い液体が手に付着する。
……大丈夫ではなかったようだが、まぁ、少しくらいならば出血しても問題ないだろう。
『こんにちは』
再び、脳内に声が直接響いてきた。
俺はもう悪魔は勿論、天使の言葉にも耳を貸さねぇーぞ……!!
『俺は小悪魔。 べ、別にお前のことを助けに来てやったわけじゃないんだからなッ!』
…………何だ、この新しすぎる選択肢は。
しかも、ツンデレなだけで、特に手助けをしてくれるわけでもないらしい。
『と、とりあえずだな、部屋に連れ込んで』
……手伝いはしてくれるようだが、いくら同じ選択肢が出てきても意味がない。
小悪魔、という何故に存在しているのかすら分からないような奴も、俺の深層心理によって形作られたものとなれば、ただの下心の塊になってしまうらしい。
『時間をかけて、「俺は困ってないから大丈夫」ってことを教えてやればいいんじゃないか? 短い言葉で伝わる相手でも無さそうだし』
小悪魔、俺が求めていたような模範的すぎる回答をありがとう。
よしっ! この案でいこう!