複雑・ファジー小説
- Re: —Book on happiness— ( No.3 )
- 日時: 2011/08/18 08:06
- 名前: サポロ (ID: T3.YXFX2)
空中に浮遊した色とりどりの言葉は、泡となって消えていった。
僕の弱い力じゃここまでが精一杯だ。
「あぅーっ綺麗だったのにー」
「明日また使ってあげるよ」
「今日じゃダメなの?」
「これは一日限りの魔法だからね」
まぁ、僕の実力不足、って事もあるんだけど。
「・・・珍しいな、お客さんだ」
——カラランッ
扉が開き、ソコに立っていたのは1人の少女だった。
髪は白く、綺麗な長髪にされている。
「あの、ここが、《世界の図書館》ですか?」
「えぇ、確かにここは《世界の図書館》ですよ」
「あの、私、探している本があるんですけど・・・。《青い鳥》っていう本なんです」
「あぁ、その本なら今調度、一冊だけありますよ。ソラ、取ってくれる?」
「オッケー」
ソラは棚から青い本を取り出すとその本を僕に本を渡してくれた。
青い本は僕が手にすると反応するように青く光を放ち始める。
「では、物語を語りましょう」
青い本の表紙を開き、僕は言葉を放つ。
《言霊》の力だけど、これは少し違う。
相手の心に共鳴して、人の心に届く言葉を放つ《言霊》だ。
気が付けば、少女の頬から涙が伝っていた。
人のココロに干渉し、人の傷を癒す一日限りの魔法は、上手く行った様だった。
フワリフワリと浮かんだ言霊はまたしても直ぐに消えて言った。
粒子となって弾いていった。
「・・・ゴメン、なさい・・・ッ」
(・・・視える)
彼女の心が、鮮明に僕の心に映し出される。
——アンタなんかっ・・・
———アンタなんて要らない子なんだよッ
——邪魔者!
——・・・皆、何で私を否定するの?何で・・・?
———許せない・・・!許せないッ復讐してやるッ・・・
そう言った彼女の側には、横たわった黒髪の少女。
肌が———死人のように、蒼白かった。
——ドンッ
———キャァァァァァッ
少女は少女の背中を押した。
残ったのは屋上に木霊する声と、目標を失った少女だけ。
僕の心に響く、彼女の声。
———《世界の図書館》・・・?ソコに行けば、私が犯した罪を・・・
少女は悲痛に呟いた。
そして、記憶は粒子となって消えた。
「・・・ゴメンなさい・・・っ」
「《青い鳥》・・・。この物語はかつて友人を傷つけた親友が、その親友の本当の真意を知るために旅をする物語です。そして最後のページは白紙。この物語は途中で終わっているのです」
「途中で、終わって・・・?」
「・・・主人公次第だからです。この先の物語は、主人公が運命を決めるのです」
「・・・」
少女は再び涙を流す。
「・・・う・・・」
「《世界の図書館》は全ての生命を祝福します。傷ついたココロがあるなら僕達はその傷ついた心を助けましょう。もし、貴方のそばに貴方と煮たような方がいれば、この図書館を紹介してみてください」
「・・・ハイ・・・ッ・・・アリガトウございました・・・」
すっきりしたような顔立ちで、少女は笑った。
「いい笑顔だ。それでは、またの来店をお待ちしております」
少女は図書館を後にする。
《死神》が僕の側によってきた。
「・・・知っているのでしょう?」
「何を?」
僕は少しだけおどけて見せて、笑った。
「・・・彼女は罪なんて、犯してないことです」
「さぁ、何のこと?」
「・・・」
確かに彼女は罪なんて犯していない。
だから彼女は罪の意識なんて要らないんだ。
罪を背負っているのは———。
「あの物語の最後のページ・・・白紙の前のページです。《本当は、友人が親友を傷つけるために行った行為》、ですから」
「・・・」
僕はソラを横目で見た。
ソラは机にベッタリと座り込んで寝てしまっている。
「・・・《死神》、ソラに毛布かけてくれる?」
「わかりました」
《世界の図書館》に、何時もどおりの静けさが戻った。
聞こえるのは、誰かも知らない《精霊》達の声だけだった。