複雑・ファジー小説

Re: —Book on happiness— ( No.4 )
日時: 2011/08/18 09:09
名前: サポロ (ID: T3.YXFX2)

僕は図書館の外を知らない。
外の世界は僕を知らない。





《第二話》—外の世界—





「僕は外の世界を知らないんだ。ねぇ、ソラ。外の世界ってどんなの?」
「うーん、なんて言えばいいんだろー?」
「平たく言えば、残酷ですね」
「残酷?」
「動物は生きるために食べなければいけませんから。一部は機械人ですけど。たいていの動物は食べて生きなければいけません。貴方だってそうでしょう?食べなければ死んでしまう。ソレは人としてあり続ける行為です。食べなければ動物は動物ではないですから」
「・・・良くわかんないな」
「食物連鎖、というものです。知らないのですか?」


僕は首をかしげる。


「《精霊》達に聞けばわかるかな?」
「無理じゃないですか?」


はっきり言われて僕は考え込む。
この図書館には世界の本が全て揃っているけど、判らない事だってある。


「どんな本でも《外の世界》は語ってくれないから」
「・・・《図書館館員》は外に出てはいけない決まり、規則でしたね」
「うん。《図書館法則》第1条。図書館館員は外に出てはいけない。理由は図書館館員の力を外に漏らしてはいけない、図書館館員を護るため、図書館館員の仕事ではなく、《本狩り》の仕事であるから」
「世界っ!窓の外見ればいいじゃないかー」
「《図書館館員》は外の世界の空気に触れただけで《霊障》が起こる可能性が高いです。万が一起こってしまうと、」
「図書館館員は《純度》を失ってしまうから」


僕は溜息を吐いた。
小さい頃、そのことを何度も父さんから聞かされた。
父さんは外の世界から来た、《図書館館員》だ。
本当にゴクまれに。
父さんのような、《図書館館員》がいる。
《霊障》を受けず、外の世界に歩ける《図書館館員》。
僕もそうだったらいいのに。


「世界ッ」
「?」


振り向くとソラが僕にひまわりを差し出していた。
いつの間にそんな物を取ってきたの?
聞こうと思ったけど、彼女はアンドロイドだった。
・・・それくらい当たり前、か。


「世界ッ外のひまわりだよっプレゼントッ」
「・・・アリガトウ」
「途中で《巨人族》に会っちゃってさー。大変だったんだー」


カランッと、音を立ててカンテラが揺れた。
相変わらずカンテラの中から蒼い光が漏れている。


「・・・ソラ、悪いんだけど手伝って欲しい事があるんだ」
「手伝って欲しい事?」
「材料を調達して来て欲しいんだ。これ、メモだよ」
「うんっ行こう《死神》」
「では、直ぐに帰ってきますので」




———カランッ




カンテラを持ったアンドロイドが、外の世界に出て行った。




————ガタンッ




「・・・?」


僕は物音がした、棚の後ろを見た。
棚の後ろには、白い羽根を生やした少年が座り込んでいた。


「《天界人》・・・?」


ビクッと震えて、少年は僕をキッと睨んだ。


「怪我してるね。今治療してあげるから」


《精霊》達と心を通わして、精霊達に彼の傷を癒してもらった。
ココロを癒すのは僕達の仕事だけど、身体の傷を癒すのは《精霊》達の仕事だ。


「これでもう平気だよ」
「・・・お前」
「ん?」


僕は首をかしげた。
《天界人》の声は、僕達《図書館館員》しか聞ける事はできない。
勿論、《精霊》の声も同様だ。
僕達は心を通じて言葉を聞いている。
だから、言葉が判る。


「何で、《天界人》を助ける?」
「何で?ソレを《図書館館員》に聞くのは可笑しいことじゃないか?」
僕は少しだけ笑って、彼に答えた。
「・・・《図書館》の中でもこの《世界の図書館》は、《天界人》でも有名だ」
「そうなの?」


ソレは初耳だ。


「《天界人》———。俺達は、《図書館館員》を良く思っていない」
「ソレは知ってる」
「けど、お前みたいな変わり者も居るってことがわかった」
「・・・ソレ、褒めてるの?」
「さぁな」


羽根を一度、二度羽ばたかせて。
少年は本を一冊取り出して読み始めた。
僕は館長の椅子に座って、ペンを走らせる。




———ガコンッ




「ただいまーっってうわぁっ!?《天界人》!?」
「何があったのですか?」
「怪我してたところを治療したんだよ」


僕は二冊本を取り出しながら二人に言った。