複雑・ファジー小説
- Re: —Book on happiness— ( No.6 )
- 日時: 2011/08/18 12:21
- 名前: サポロ (ID: T3.YXFX2)
———カラランッ
「世界ッ!久し振りだなッ」
そういって図書館に訪れたのは、違う図書館の館長をしている絵本夏季だった。
絵本夏季は《霊障》を受けない体質で、度々僕の図書館の本を借りていくが・・・。
「本返しにきたぜッ」
「ん」
「世界。その人だぁれ?」
「あぁ、違う図書館の館長の絵本夏季だよ。しばらく本を借りてたんだけど・・・返却日が過ぎてる」
「悪いって・・・。あ、そうだ。コイツ借りてっていい?」
白い本を見せた夏季に、僕は溜息を吐いた。
「いいけど・・・夏季のところにも本はあるでしょ?」
「あるけど、こことは違うんだよ。本のココロってさ、《図書館館員》の言霊によって違うんだ。お前の本は読み心地がいいんだよ」
「・・・」
すると《死神》が僕の机の上に二つ、カップを置いて紅茶を注いだ。
「アリガトウ、《死神》」
「いいえ」
首をかしげた夏季が、僕に聞いてきた。
「《死神》・・・って、何の種族なんだ?それに名前じゃないだろ」
「名前は誰も知らないよ。彼女も」
「・・・《機械人》、か」
「うん」
僕は紅茶を一口口に含んで、カップを机の上に置いた。
机の上には、羽根ペンと物語を書くための特殊な紙、角砂糖が置かれていた。
角砂糖はちょっとばかし高い物を買ってきてもらっている。
紅茶の葉は妖精たちが作っている物を使っている。
ソラを何気なく見ると本を読んでいた。
「しかし久し振りに来てもすげぇな。お前の図書館。まぁ、世界で一番の図書館だしな」
「そうなの?」
「あぁ。お前は外に出られないから知らないか。スゲェよ。お前の図書館の噂」
そういって笑った夏季に、僕は視線を手元にある紙に移した。
「本、書いてるのか?」
「まぁね」
「ソレって《本狩り》の仕事だろ?」
「別に《館長》が本を書いちゃだめっていうルールは無い」
「ふぅん・・・。じゃあさ、お前が書いた本、俺が読んでやるよ」
「・・・別にいいけど」
本を片手に椅子から立ち上がった夏季は、歌う。
言葉は空中を彷徨い、粒子となって降り注ぐ。
僕は目を閉じてソレを聞いていた。
夏季の言霊の特徴は、人を癒す事に長けているのではなく人に干渉することに長けている事だ。
人に干渉するという事は、ココロを知るという事。
空中に浮遊した言葉は、消えて行く。
全て歌い終わった後、夏季はスゥッと息を吸って吐いた。
「・・・スゲェな。スッゲェよ。お前」
「何が?」
「お前の物語、スッゲェ読み心地がいい」
どの本よりも。
そう付け足して夏季は僕を見てきた。
「ソレ、気に入った?」
「あぁ、」
「じゃあソレ、あげるよ」
「いいのか!?」
凄く目を輝かせて身を乗り出してきた夏季に、僕は頷いた。
「それくらいならいくらでも」
「サンキュー!大切に保管するからな」
そういって夏季は図書館を後にした。
「世界ッ私も聞きたいッ!」
「別にいいよ。《死神》もそこに座って」
「ハイ」
ソラと《死神》が座る。
僕は本を両手で持って、空を仰ぎ、歌い始める。
声は、粒子となって、泡となって、鈴の音のような音を響かせながら消えて行く。
僕が書いた物語の題名は、《コトバ》。
少年が少女を助けるために色んな犠牲を払うことになる物語だけど、最後はハッピーエンドになる物語。
「——————」
———世界。ここはお前が護るんだ。
父さんの言葉。
———お母さんが物語を書いて、お父さんがソレを読むの。・・・世界。貴方は・・・。
お母さん。
僕は今。
(とても、とても大切な友達に会えました)
僕は少しだけ笑いながら、声を響かせた。