複雑・ファジー小説
- Re: —Book on happiness— ( No.9 )
- 日時: 2011/08/18 13:51
- 名前: サポロ (ID: T3.YXFX2)
「何してるの?世界」
「あぁ、樹木に水をやってるんだよ」
《第三話》—ユグドラシル—
「その樹は・・・ユグドラシルの樹ですね」
「うん。小さい頃母さんがユグドラシルから一本だけ、貰ってきてくれてね。以来育ててるんだ」
背の丈ほどになったユグドラシルは綺麗な緑色の粒子と光がほのかに淡く灯っている。
水をあげるたびに嬉しそうにザワザワと葉を鳴らしている。
「ユグドラシルから?すっごいね。ユグドラシルって結構頑固者なんだよ?」
「そうなの?」
「えぇ。気難しい性格で名が知られていますよ。懐くのはせいぜい精霊くらいな物ですけど」
「・・・」
樹の葉を触りながらジョウロを脇に置いた。
ユグドラシルの周りに精霊が浮遊している。
「そうだ、調度《本狩り》からユグドラシルの本を貰っていたんだった。読もうか?」
「聞かせて聞かせて!」
「うん、じゃあ始めるよ」
ユグドラシルの側に椅子を置いて、僕は語り始める。
歌う言葉は粒子となる。
言霊はユグドラシルと共鳴し始める。
「うわぁ・・・!」
ザワザワ、と。
葉の音が聞こえて、僕も閉じていた目を開けた。
ユグドラシルの幻影———。
「《図書館館員》はユグドラシルと心を通わすこともできますからね」
声が、ユグドラシルの心が伝わっていく。
世界の生命への怒りや悲しみ———そして想い。
「・・・ユグドラシルもいろんなこと想ってるんだね」
僕はパタンッと本を閉じた。
物語が終わりを向かえ、ユグドラシルの幻影は消える。
同時にユグドラシルは光を徐々に元に戻していく。
「世界樹は世界を支える樹だ。だから人の感情も、生命の感情も読み取りやすいんだろう。だから同時に負の感情にも染まりやすいんだけど、何で僕に触れても平気なんだろう」
「《図書館館員》は元々《純粋》を言霊の力にしていますから。そのために外の空気には触れないのです」
「へぇ」
僕は机に座って置かれた飴を口にした。
紅茶を口に含んだところで、僕は何かが聞こえることに気が付く。
———イツモ、ミズヲクレテアリガトウ
僕は少しだけ微笑んで、視線を本に再び移した。
————カラランッ
ベルが鳴って、僕は顔を上げる。
扉の前に立っていたのは、緑色の髪にエメラルドグリーンの瞳をした短い髪の少女。
ニコッと僕に向かって笑いかけている。
「あぁ、何か本をお探しで?」
「うん。ユグドラシルの本をちょっと、探してて」
少女はそういって、もう一度僕に笑いかけた。
「調度今手元にあります。読みましょうか?」
「出きるならお願いします」
僕は再び歌いだす。
二度目の言霊。
再びユグドラシルに共鳴して、《精霊》達が輝き、粒子が空中に浮遊して舞う。
少女は目新しい物でも見ているように、眼を輝かせている。
「満足いただけましたか?」
「ハイ、アリガトウございます」
頭を下げた少女に、僕は笑う。
それにしても、不思議な少女だと想った。
今まで出会ってきたどんな生命よりも、不思議だった。