複雑・ファジー小説

Re: カンテラノマホウツカイ ( No.5 )
日時: 2011/08/19 11:24
名前: サポロ (ID: T3.YXFX2)

「《灯し屋》企業も楽じゃないだろうに」
「でも、楽しいから」





《第一話》—カンテラ—





少年はブーツを履き、カンテラを持つ。


——カランッ


「じゃあ行って来ます」
「おぉ、行ってらっしゃい」


半分機械の姿をした青年は手を振る。
カンテラを掲げ大きく息を吸い、力をカンテラに込める。
スッと眼を閉じると、オレンジ色の粒子がカンテラに集まって、一斉に弾けた。
家の周りにある光の無い街灯に、淡い炎が灯った。


「終了」


カンテラを下げ、満足そうに笑う。
人々はそれでも外には出ない。
ソレは何時もの事だ。
しばらく街を歩いていると、向こうから光が見えた。
光と言っても、人口の光。
白い光は街を覆っている。


———カランッ


カンテラが静かに音を鳴らした。


「あぁ、無為君。今日は何を探してるの?」
「今日はカンテラを作る材料を探してるんだ。ガラスとネジと鉄」
「相変わらずだね。いつになったらコッチの街に引っ越してくるの?」
「前にも言ったはずだけど。俺は引っ越さない」
「あんな薄汚れた街で火を灯し続けるなんて・・・。間違ってる」
「間違ってても、俺はあの街を護り続ける。ソレが俺たちの仕事だ」


それに、薄汚れてなんて居ない。
この街のほうが、俺は嫌いだ。


(本当の自然の火じゃない人口の光で・・・。だから冷たい)


「寒いんだ、この街は。暖かくない。知ってるだろ。俺達は寒いところがダメなんだって」
「・・・でも、」


カンテラを持って、お金を払った後店を後にした。
街灯に灯るのは白い、人口の温かみの無い炎。
俺達《灯し屋》は、その光をあまり好まない。


「・・・幾らこの街が発展してようと俺は好きになれない」




———カランッ




カンテラを目の前まで持ち上げ、その中に火をともす。
オレンジ色の炎、オレンジ色の粒子が舞う。


「じゃあ始めようか」


俺は粒子を一斉に弾けさせた。
粒子はキラキラと夜空に舞う。




——パチパチパチッ




「?」
「凄いね。幻想的だ———。少年、キミは《灯し屋》なのかい?」
「ハイ。父の後を継いで居ます」
「ほぉ。なるほど」


男はマジマジと俺を見た。
俺は一歩、二歩下がる。


「では当然キミは《月の女神》のルナのご加護を?」
「いえ、《永遠の炎の女神・ヴェスタ》からご加護を受けています」


すると驚いたように男は顔を歪めた。


「・・・なるほど、キミが《カンテラの魔法使い》か」
「・・・知ってたんですか」
「だからカンテラを下げてるんだね」


その名前を知っているという事は、政府の人だ。
俺はあまり好きじゃない。


「・・・まさかこんな少年だったとはね」


ニッコリ笑う表情に、俺は顔を歪めた。