複雑・ファジー小説
- Re: 砂の国 ( No.9 )
- 日時: 2011/08/21 09:37
- 名前: 満月の瞳 (ID: A2bmpvWQ)
- 参照: http://fullmoonaye.blog.fc2.com/
1. 砂と岩の馬車道にて
幼いころから、はるか昔の建造物や歴史に、心を惹かれていた。
その時代の人々がどのように暮らし、どのように生きていたのか、考えるだけでとても興味深かった。
少年時代は、毎日のように書庫に籠り、歴史書を何度も何度も繰り返し読んでいた。
よくわからない文字を読み解くこと、図面を模写すること—————何もかもがすべて好きだった。
太古の絵を見てると、そこに行ってみたいという衝動がわきあがり、いつも親を困らせていた。
だから、物心ついた時から、僕は考古学者を夢見ていた。
家族からは反対されたが、僕はあきらめなかった。
長い間必死で説得し、親も折れて許可をもらうことに成功した。
それから勉学に励み、無事大学院に合格することができた。
更にそこで研究をし—————卒業した。
————僕が考古学者として旅をするようになったのは、つい最近のことなのだ。
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空は青く、澄んでいた。
辺り一面が、ごつごつした岩の多い荒野だった。
その中をガタンガタンと、馬車が揺れて進んでいる。
「アフマドーラ大帝国跡?ジアさんはそんな辺境まで行くんですか?」
鞭を持った中背の馬車主が、隣に本を持って座っている若い男にそう言った。
ジアと呼ばれたその男は、「辺境なんかじゃないよ」とかえした。
「アフマドーラ大帝国は、はるか昔この世界で最も栄えていたと言われる大帝国だよ?そんなところを辺境と呼んではいけないよ」
「しかし・・・わしゃあそこは嫌いだ。あそこで戦争が起きちまったからこんなふうに国土が荒れ果てちまったんだよ」
「そうですけど・・・興味深いとは思わないんですか?」
「ちったあ思うけどなぁ—————」
「僕はあそこでいろいろと調べてくるんです」
「あ!そうなのか・・・てっきり観光者か何かかと思っちまってた」
「僕はれっきとした考古学者ですよ」
ジアはサバイバルジャケットの懐から、何かの証のようなものを取り出して馬車主に見せた。
「おお・・・たまげた!あんたブロイテイェーン大学の首席だったのかい!」
「いや、そこじゃなくて考古学者って部分を見て欲しかったんですけどね・・・」
ブロイテイェーン大学は、世界のトップに立つエリート大学である。
「そこを首席で卒業するなんて・・・ジアさんは天才かい?」
「いえいえ、まだまだです。もっと勉学に励みたいと思っています」
「天才が言いそうなセリフだねぇ。ヒッヒッヒ」
かなりの時間、代わり映えのない荒野を進んでいると、地平線の彼方に小さな街が見えてきた。
「見えてきたよ。辺境の入り口の街、サブネだ」
「あそこが・・・」
ジアは目を凝らしてよく見る。
向こうのほうの地面には、ほとんど岩がなく、かわりに黄砂が覆っていた。
街に近づいてくるにつれ、地面がサラサラした黄色に変わっていく。
「俺の家もあそこにあるんでな。朝起きると部屋が砂っぽくて困るんだわ。一週間以上ぶりだなぁ」
「あの、あそこに宿はありますか?」
「一応はあるぞ。だけど値段がぼったくりなところばかりだ。部屋は汚いし飯はまずい。肉の塩漬けなんかは日干し煉瓦かじってるほうがましだぞ」
馬車主の言葉に、ジアはため息をつく。
(金がほとんどないから・・・・今晩は野宿かな?)
大帝国跡をめざし、近づくにつれて、どんどん軽くなっていく財布が悲しい。
しかし、それで太古の文明を知ることができるのなら、万々歳だ。
「ジアさん。よかったら俺の家に泊まらねえか?」
「いいんですか!?」
馬車主の思いがけない言葉に、ジアは目を輝かせて声を上げる。
「あんましこっちのほうにはお客さんが来ないんでな。俺の馬車に乗るやつは大抵は泊めてるんだぜ?俺の家族は気さくなやつでぁ。いろいろと旅の話をしてやってくれよ。部屋は・・・綺麗かはわからないが、おふくろの料理は世界で一番うまいぞ」
「それで・・・・ご料金は」
「そんなのいらねえよ。旅の話が料金ってことでさ」
「ありがとうございます!」
ジアは感謝で胸がいっぱいになる。
「ちょっとこっから先は地盤の影響で揺れるぞ。口閉じてろ」
「え、うわっ!」
激しく揺れる馬車の中、手すりに必死に使まりながら、ジアはドキドきしていた。
(もうすぐ大帝国跡につくんだ!)
子供のころ、一番行きたかった場所についにいける!
これほど楽しみなことはなかった。
アフマドーラ大帝国。
通称、砂の生まれた国。
砂の、国。