複雑・ファジー小説
- Re: 俎上の国独立に移る【1-4、登場人物更新】 ( No.7 )
- 日時: 2011/08/27 00:15
- 名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: WylDIAQ4)
1-5 ヴァイオレット家当主
オーカーが日替わり定食にかじりついていると、男が取り巻きを引き連れて入ってきた。それは、オーカーも知っている人物だった。
「汚い食堂だな」
フンと鼻を鳴らし、嫌味を平然と言うこのふてぶてしさと、気取った口調、そして薄くなり始めた髪の乗った、気取った面構え。
「ヴァイオレット家の当主様がなんでこんな汚い食堂に来たんですかねぇ?」いつのまにか食堂の女将が出てきた。女将は腰に手をあてた。「うちにゃなんにもないですよ、なりあがり貴族のパブルさま」
ヴァイオレット家は、この小さな国に豪邸を構える貴族の一つである。
莫大な資産と土地を蓄えた貴族だが、その実は「たまたまとある貴族に気に入られた」パブルが爵位を「譲り受けて」築いた富である。
なぜ気に入られたのか真相は確かではないが、ギャンブルでイカサマを成功させただとか、肩こりを治しただとか、根も葉もない噂は山ほどある。
パブルは嘲笑し、
「用があるのはお前じゃない。そこの、ホーカーといったか?」
パブルはオーカーを指差した。オーカーは口にフォークをくわえたまま驚いた。「ふぁい?」気の抜けた返事をする。
「おお、君か。わしの可愛い娘のオペラがホーカーくんのことを大層気に入ったもんでな。うちに招待しろと言って聞かないのだよ」
オーカーはおかずを飲み下した。「オーカーです」と訂正した。同時に、この男は好きになれないと確信した。ホーカーといえば、行商人のことである。こいつはそういう、ちゃんとした売り場を持たない商売をバカにしているにきまっている。そしてそれをわざと言っている。オーカーはムカムカと腹が立ってきた。
「自分は忙しいので、行く気はありません」オーカーは再びフォークをくわえた。
頭に硬いものが当たる感覚がした。カチャリ、と部品が内部で廻る音が聞こえる。
「そう言われてしまうと、少々手荒なマネをしたくなるのだがなぁ?」パブルはいやらしくひげをなでた。
取り巻きの男の一人が、自分の傍らに立っている。そしてそちら側の側頭部に、硬いものがピタリとくっついているのだ。これはなんだ——なんて、考える暇も必要もない。
「あんた……ッ、いい加減におしよ!!」
食堂の女将がパブルに向かって怒鳴った。パブルは取り巻きにアゴで指示する。パブルの隣に立っている取り巻きは、静かに銃を女将に向けた。無機質で出来ているのかと思うほど、取り巻きは無表情で無感情でさらに無情だった。女将はグッと黙る。
「さぁ、どうする、オーカーくん?」
オーカーは口で答えるかわりに、両手を挙げた。