複雑・ファジー小説

Re: 俎上の国独立に移る【1-5、登場人物更新】 ( No.8 )
日時: 2011/09/04 17:04
名前: 深桜 ◆/9LVrFkcOw (ID: xJuDA4mk)

1-6 それがしが息女をば傷つけるがは、かまえて許さぬ

 一行はパブルの屋敷へ到着した。オーカーは外からなら何度か見たことがあるが、今回も自己主張の強い庭が、これまた自己主張の強い屋敷を取り囲んでいた。庭一面にちりばめたような薔薇、ユリ、マリーゴールドが、高いところも中空も低いところも埋め尽くしている。寒い季節なのに咲き誇っているのはなぜだろう、とオーカーは疑問に思うばかりだ。
 屋敷の白い壁がやけにまぶしい。オーカーは自分がこれから何をされるのか考えて、かなり気分が悪くなった。今着いたばかりなのにもう帰りたくなる、オーカーは得体の知れないデジャヴを感じ、身震いした。
「どうしたんだオーカーくん? 早くきたまえ」
 この気取った口調が気に入らない。オーカーはむすっとした表情を作った。

 屋敷に入ると、いきなり何かが飛びついてきた。自分の胸の辺りに顔をうずめ、ぐりぐりと押し付ける。なにか呟いているので耳を近づけてみると、
「オーカー様オーカー様オーカー様……はあぁん」
 という声が延々と続いていた。オーカーは仰天してすぐに耳を離したが、その特徴的な甘ったるい声は聞き覚えがあった。
「オペラ……さん?」恐る恐る訊いてみると、胸にうずまる顔は勢いよく上がった。果たしてそれは正答だったが、かなりうれしくなかったのは言うまでもない。
「オーカー様っ! お会いしとうございましたぁ!」
 オペラの声は半ば狂気の混じる拡声器のようで、よく響く声が猫撫で声と相まり、一層ムカムカしてくる。オーカーは何か帰るための口実を探したが、自分のボキャブラリーの少なさに心のうちで落ち込むのみであった。

「オペラ」
 パブルが冷静に言う。「オーカーくんにはわしの用があるんだ。すまないが席をはずしてくれ」
 オペラはぶりっ子っぽく頬を膨らませ、
「何よ! どうせ私が会いたがっていたことを口実にしてつれてきたんでしょ!」
 オーカーはパブルを見た。「本当ですか」あからさまに不快な顔をするオーカーに、パブルは口ごもる。
「あー……、わかった、後であわせてあげよう。オーカーくんもいいだろう?」
 オーカーは良くないし絶対ヤダと言いたかったが、グッとこらえた。パブルの目は頼むときの目ではなく、強制するときのそれであった。嫌々肯定する。
「じゃあ後でオーカー様を私のところに案内してちょうだい」オペラは召使に言いつけ、
「オーカー様、待っておりますぅ」
 わがままな少女は語尾にハートをたっぷり含んだ、オーカーにとっては不快極まりない甘い声で言ったあと、まるで嵐が突然来てすぐ去っていくように、バタバタと姿を消した。
「……すまない、オーカーくん。わしもオペラには困っておるのだ……だが、」パブルはオーカーの肩に手を置いた。
「わしの娘を傷つけることは、絶対に許さぬ」
 ぞっとする声で呟いた。