複雑・ファジー小説

Re: ◆鬼退師付き海賊銃乱戦風◆【更新再開!】 ( No.10 )
日時: 2011/09/07 09:51
名前: 王翔 ◆OcuOW7W2IM (ID: 8Zs8HT.V)

第四論



 振り向くと、鬼の少女が立っていた。
 普段なら、全力で逃げるところだが、それではあまりにも格好悪いと思い、リオはアサルトライフルを鬼に向ける。
 鬼少女は、やわらかな笑みを浮かべる。

「ねえ、お姉さん? 鬼は、鬼退師にしか倒せないんだよ? どんなに強くても貴方に私は倒せない」
「そんなもの、絶対とは限らない」
「フフフ。無謀な挑戦が好きなのね」

 愉快そうに笑う鬼少女。
 しかし、あちらが愉快ならこちらは不愉快だ。
 鬼少女の言う通り、鬼は鬼退師にか倒すことができない。鬼は、強い未練を残した者の成れの果ての姿であり、《退術》を用いて初めて倒すことができる。倒す、というよりはお祓いを言った方が正しいのかもしれない。
 鬼は、生者の身体を欲して彷徨う。海鬼は海から出ることはできず、山鬼は山から出ることができない。自由を求め、生者を襲って身体を乗っ取る。
 事実、生者の身体を乗っ取り、第二の人生を歩むものもいれば自分の死に関わった者に復讐をするものもいる。

「あなたの身体、良さそうね。耐性が強そうだし、体力もありそうだし。私に譲って?」
「ふざけるな」
「ねえ、お姉さん」
「なに……」

 声を掛けられ、目が合った瞬間だった。
 身体が金縛りにあったように動かなくなった。
 力が抜け、アサルトライフルが手から滑り落ちる。

「……っ」

 鬼少女は、ゆっくりとリオに歩み寄り、リオの胸に手を置いたかと思うと波紋が生まれ手が沈んでいく。

「う、うう……」

 リオは苦悶の表情を浮かべ、身体を強張らせる。
 鬼少女は、にこりと微笑む。

「あなたの記憶が見えるわ。そう……お姉さんがいたのね? 意外と甘えん坊だったのね? お姉さんは身体が弱いのに、あなたは無理を言って、それでお姉さんの身体は余計悪く──」
「やめ……」
「本当のことでしょう? そのせいで、お姉さんはとうとう……」
「やめろ……私は……」
「死んじゃったのよね」
「あ、姉上は……私は、何も……」

 瞬間、黄金色の風が鬼少女を切り裂く。
 鬼少女は、飛びのくようにリオから離れ、視線を移す。
 向日葵の杖を持つ星乱の姿があった。
 
「人の記憶を勝手に見るのは、良くないと思うが……」
「私が何しようと、私の勝手じゃない。あ、貴方……鬼退師さんね?」
「うむ」

 鬼少女は、疾走──星乱に向かって鋭い爪を振り下ろす。
 それを星乱は向日葵の杖で受け止め、空いている方の手をかざし《人物情報》を呼び出し、《退術》の《斬華》をタッチする。
 向日葵の杖が、感じの文字列に包まれ、勢い良くなぎ払うと黄金色に輝く向日葵の花弁が舞い乱れ、鬼少女を切り裂く。
 
「きゃ……!」

 鬼少女は小さく悲鳴を上げ、その場に倒れた。
 その隣にしゃがみ込み、緊張感のない声で尋ねる。
 
「君の未練は何だ?」
「……愛情……」

 きっと家族もいなかったのだろう、と星乱は悟り、鬼少女の頭を撫でる。

「これで、足りるかー?」
「うん……」

 鬼少女は、朗らかに笑うと粒子となって風に溶け込むように消え去る。
 星乱はリオの方に向き直る。

「大丈夫かー?」
「大丈夫に決まってるだろう……こっち見るな」

 リオは顔を背けながら答える。
 それに対し、星乱はいつもと変わらない調子で一言。

「君の姉のことは……きっと君のせいじゃないと思うー」
「…………」

 相変わらず、ぼーっとした表情のまま、

「じゃあ、俺はなかに戻るが……落ち着いたら戻って来るといい」
「まっ……」

 リオは、星乱の背中にぎゅっとしがみつく。
 
「ひ、一人にするな……」
「甘えん坊なのは、変わってないのかー?」