複雑・ファジー小説

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— ( No.11 )
日時: 2011/09/07 13:31
名前: 火矢 八重 (ID: AHkUrUpg)

おっしゃー!運動会準備の代休だー!土曜日が休めない代わりに今日が休みだ、やっほぉ!

と言うわけで、本文へ。
———————————————————————————

 で、冒頭に戻ると言うわけである。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」

「耳元で叫ぶな、五月蠅い!」

 通康は叫ぶ。それを叱る汐音。
 だが、乗馬も初めての通康には、仕方がないことだろう。何故ならば、汐音は現代で言えば時速百二十キロは走っているからだ。

 通康は思っただろう。——————あ、今日俺死ぬかも。

 何時もこの馬に乗っている汐音にしては丁度良い速さだが、初心者で急にここまで速い馬に乗った通康は、ひとたまりも無いと思う。
 


 数分経って、馬が止まった。汐音はふう、と息を付く。
 着いたのは山だった。城から結構な距離があるのに、あっとう間についてしまった。
 汐音は満足そうな顔をして、後ろに乗っている通康の方へ振り向いた。きっと彼も、満足な顔をしているだろうと予想して——————————。

 だが、汐音の予想は外れた。いや、外れて当たり前だと思う。あんな速さで怖さを感じない汐音の方がおかしいであろう。
 通康は真っ青の顔で、ビクビクと肩が震えていた。せめて硬直しなかったのが奇跡だ。

「・・・大丈夫?」

「あ、アハハハハ・・・・」

 通康は笑っている。笑っているが、頬は真っ白で唇は青くなっている。
 ゆっくりと降りてもまだ、通康は青かった。

『姫様、やっぱり速かったなのですか?』

 ふと、少し図太い声が聞こえた。だが、鈴を転がしたような声にも聞こえる。

「そうね。ちょっと速すぎたかも・・・」

 汐音はその声に答えた。


 通康は青いまま、この会話が少しおかしいことに気付いた。
 汐音と通康以外、人は居ない。では、汐音は何と話していたのだろうか。
 涼しい風が吹いた。萌える草が、風にゆらりゆらりと揺れる。


『しかし、この子も情けないなのですね。あんな速さでみっともない叫びを上げるなんて』


 今度こそ、通康は固まった。
 馬だ。馬が、喋っている。大きい口を開けながら、なんてことも無く汐音と話している。
 汐音もまた、何の違和感を持たずに馬と話している。

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— ( No.12 )
日時: 2011/09/07 15:41
名前: 火矢 八重 (ID: AHkUrUpg)

「う、う、う、うま、が」
 パクパクと口を動かすが、思ったように声が出ない。
『いやー、しかし汐音様もやりますなのですー、男を引き込むなんて』
「アハハ。茂賀(しが)だって手伝っているじゃないー」
 呑気に話している馬と汐音。
「し、汐音様?」
 やっとのことで声を出せた通康。その様子に、汐音はやっと気付いて言った。
「ああ、この馬は十二支の馬の神様なの。『茂賀』って名前なんだよ。こんなナリだけど、人形になったら可愛らしい女の子だよ」
 そう言いながら、ニコニコして笑う汐音。
 やっぱり普通の馬じゃないのか!と、通康は心の中で突っ込んだ。
 そして、ふとある不安を思った。


 —————神様って、た、祟られるッ・・・・!


 図々しく移動に使って祟られるんじゃないかと、通康は更に顔を真っ青にした。

「あれ?通康?どうしたの?大丈夫?」
 何故顔を青くするのか判らない汐音は、少しオロオロする。
 通康は背筋に冷や汗をかきながら、言葉を区切り言った。
「そのッ・・・茂賀様って」
「何で様付け?」
 通康の言葉を、汐音が質問で遮った。

 言ってから汐音はしまった、と思った。
 まだ話の途中なのに、つい質問で遮ってしまうのは、汐音の悪い癖である。それで良く、通直や通宣、霧妃に注意されたものだ。

 だが、通康は気にしていないのか、それとも気づいていないのか、汐音の質問に答えた。

「や・・・だって、神様でしょ?」

 その言葉に、汐音はやっと気付いた。

「ああ、ごめんなさい。茂賀は私のまあ、用心棒みたいな存在なの」
 だから気にしないでいいわ、それに他にも似たようなのが居るから驚かないでね、と汐音は言った。

 通康は驚いた。———神が用心棒?
 茂賀を見ると、どうやら本当のことのようだ。だが、こんなに明るい少女が、神や妖を見ることが出来るなんて、到底思えなかった。

 通康はますます不思議に思った。
 妖などを目に写すことが出来、妖に怖気ず、神にも好かれる銀髪と蒼緑の瞳を持つ少女。
 
 沈黙が流れた。物凄く、痛い沈黙。
 通康が何か言おうとした。だが、沈黙を破ったのは汐音だった。

「・・・ねえ、貴方、妖を視ることが出来るんでしょう?」
 汐音が、少し小さくでも思い切って言った。