複雑・ファジー小説
- Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— ( No.14 )
- 日時: 2011/09/07 17:10
- 名前: 火矢 八重 (ID: AHkUrUpg)
言われた途端、ゾオッと、背筋が凍った。
歯が、ガチガチと震えている。
——————やーい、嘘つき
——————疫病神は出ていけ!
——————何で気持ち悪い嘘を着くんだ!?
——————村に入るな!役病神が!
『嘘つき』『疫病神』と、頭に響く。
妖が視えることを言ったら、必ずそう言われるようになった。
あんなに優しい人だったが、一瞬にして自分を蔑むようになった。
だから、自分は疫病神なんだ。そう思うようになった。
だから、嫌われても仕様が無いんだ。そう思うようになった。通康はそう思えば、少し気持ちが楽になれた。だから、ずっとそう思ってきた。
通直のことも、信頼しているわけじゃない。寧ろ、赤の他人と思っている。
自分は独りで生きていくのだと、自分は他の人とは違うんだと、そう思い続けた。
だから、今すぐ出ていけと言われれば、出ていくつもりだった。
なのに—————今、震えている。怖がっている。
また、期待して裏切られるんじゃないかと、怖がっている。
「あのね——————」と、汐音が話を切り出す。
通康は耳を塞ぎそうになった。目をつぶりそうになった。逃げ出したくなった。
きっと、こんな良い子も俺を嫌う。きっと嫌う————————。
「————あのね、私も通康と同じなんだ」
だが、汐音から出た言葉は、通康が予想していた言葉とは違った。
俯いていた顔を上げると、汐音は微笑んでいた。————今にでも、泣きだしそうな笑顔で。
汐音は続けた。
「同じって・・・言うのは変か。私ね、実は河野家の血を一切引いていないんだ。
私は、河野家にとっては赤の他人。人でもなく、神でもなく、妖でもない。もっと言うのなら、人でもあって、神でもあって、妖でもあると言うべきかな。ほら、見ての通り私銀色の髪に蒼緑の瞳でしょう?」
アハハ、と笑う汐音。
「両親は、私のせいで死んじゃった。父が海神で、母が巫女だった。でも、母は私を産んですぐ死んじゃったし、父も私が五歳の頃に亡くなってね。今は黄泉の国でゆったりしているだろうけど」
だから——————だから、話をしたかったの、と汐音は言った。
「・・・貴方も、自分のせいで両親が死んじゃったと思ってると思う。だから、放っておけなかった。———妖を視える貴方と、話がしたかったの」
- Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— ( No.15 )
- 日時: 2011/09/07 19:31
- 名前: 火矢 八重 (ID: AHkUrUpg)
視える人と、話がしたかった。
汐音の言葉に、通康は同じだ、と思った。
—————それは、俺も同じだ。
通康は思ったことを口にした。
「俺も、視える人に会って、話がしたかった」
—————口にする度に、涙が零れそうになった。
「自分が、本当に視えているのか、不安だった」
—————口にする度に、熱い物が胸に込み上げて来た。
—————苦しくて、泣きたくなくて、でも言葉と気持ちは止めることが出来なかった。
—————独りでも平気だとずっと思っていた。 時々何処か、ポッカリと何か穴が開いた様な感じに襲われた。そこから冷たい風が吹いているような感じもした。でも、それは気のせいだとずっと思って、平気、平気だとずっと自分に言い聞かせていた。
だから、泣くこともしなかった。自分はこれからも独りなんだって、そう思って。
—————でも本当は、凄く寂しかった。
独りは寒くて怖くて悲しくて、不安が何時も頭を抱えていた。
独りで広い屋敷に居た時は、ボーとして、考えられない時もあった。
誰でも良かった。誰でもいいから、隣に居て欲しかった。
ああ、やっと気付いた。
俺は、寂しかったんだ————————。
ポロリと、一つ涙が零れた。一つ零れると、プツリと、涙腺が切れた。土が、濡れていく。
通康の泣きだした顔を見て、汐音は通康に抱きついた。
通康はカッコ悪いと思っていたけれど、暫くの間、ずっとその格好で居た。
この時通康は、暖かい物を初めて知った。