複雑・ファジー小説
- Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— ( No.21 )
- 日時: 2011/09/08 19:26
- 名前: 火矢 八重 (ID: AHkUrUpg)
——————にしても、あれは誰の声だったんだろう。
通康は思った。ここ何日か、頭の中に声が響く。
凄く、寂しそうな声が聞こえる。
ふと、汐音の方を見た。汐音の横には桶があって、どうやら通康が寝ている間、ずっと看病していたらしい。
普通の直系の姫は、絶対そんなことしないだろうなあ、と通康は汐音の度胸と根性に、驚きの連続だったりする。
「今日はあんまり無理しないで、寝ていて。お父様にも言っとくし」
汐音の言葉に、通康は素直に頷いた。
声が、聞こえる。
—————ああ、退屈だ。
—————寂しい、退屈だ。
悲しみ、寂しさの感情が伝わる。
重い、重い、重い、重い——————————————ッ!
「重ッ・・・」
通康は突然目が覚めた。今は真夜中で、もう誰も寝静まっている。
通康は起き上がろうとした。しかし、何かが上に乗って、動けないのだ。
丁度胸あたりに何かが乗っていて、息苦しい。
何だ、一体。猫が入り込んで来たのか—————。
真っ暗で、普通の人なら視えないが、通康は夜目が利く。じっと、目を凝らして胸辺りを見て見る。
「な、何で・・・」
通康は信じられないと言う顔だった。
通康の胸の上に居たのは、猫ではなく兎だった————————。
「お前は年輩者に気を使うと言うことを知らんのか!」
「妖に年輩者とか偉そうに言われる筋合いないな。人の上でぐーすか寝ているブサ兎が」
「ブサ兎だと————ッ!?おのれ、言わせてみれば———————ッ!」
通康とブサ猫・・・もとい、ブサ兎は喧嘩をしている。
ブサ兎が妖と察した通康は、ぐーすかといびきをかいているブサ兎に、手甲を下したのだ。
あまりにも油断して、しかも尋常の人間よりも強い拳をくらって、ブサ兎は撃沈し、復活した後文句を言っているのである。
「大体私はお前の体の中に居たのだ!それがお前の力が覚醒して、追い出されてしまったのだ!」
「ああ、あの声はお前か!つーか人の体の中で生活するなよ気色悪い!」
「なんだとー!?」
と、喧嘩をしながら、通康はロウソクに火を付けた。
真っ暗な部屋に、明かりが灯る。通康はあまりロウソクは使いたくなかった。この戦国の世、ロウソクは高いのだ。だが、こんな暗闇で妖と喧嘩するのは不便と思い、仕方がなく付けた。
通康はブサ兎の妖の顔を、まじまじと見た。————やばい、顔が笑える。
く、く・・・と、笑いを堪えながら、ブサ兎を見る。するとブサ兎は、驚いた顔で言った。
- Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— ( No.22 )
- 日時: 2011/09/08 19:49
- 名前: 火矢 八重 (ID: AHkUrUpg)
「お前・・・華巌にそっくりじゃないか」
「華巌・・・?」
ふと、夢を思い出した。————あの、火に佇む少女を。
「悪いが、華巌っていう女の人は知らないぞ。良く、母親にそっくりだって言われたけれど・・・。俺の母はお岩って名前だったしな」
通康が言うと、ブサ兎は答えた。
「お岩は偽名だ。本当の名は華巌と言う名前なのさ」
「え・・・?」
「そうか、お前は華巌の息子か。いや、長年お前の体に居たから、すっかり忘れておったわい」
「ちょ、ちょっと待て。話が付いていけないんだが。つまり、俺の母は華巌という人で、お岩は偽名ってことか?ってか何で母上のことを知っているんだ?」
「ちゃんと判ってるじゃないか。何故お前の母親を知っているかと言うと、華巌と良く遊んだからだ」
「遊んだ・・・?」
「勿論、お前が生まれた頃も知っているぞ。その時から私はお前の体に入ったからな」
ブサ兎の言葉を聞いて、通康は真剣な顔になった。
「母上とお前の知り合いはともかく、もし知っているなら教えろ。————俺が生まれてまもない頃、俺の父と母、それから使用人を殺したのはお前か?」
妖は残虐的なモノが多いことを、通康は知っている。
妖が視えるだけでも、良く食べられそうな経験があったからだ。
もしかしたらコイツが——————母上たちを、殺したんじゃ。
ブサ兎はフウッ・・と息を一つ着いて、言った。
「あれは私じゃないぞ。法師がやったことだ」
「法師・・・?」
「昔華巌は山奥にひっそりと暮らしていてな。お前のように妖を写すことが出来、祓う力が強かった。一部の妖には好かれていたが、他の妖には嫌われていたな。人にも嫌われておった。
だが、一人の法師が華巌に見初めてな。華巌の影を追うようになった。
やがて華巌は、通吉つまりお前の父と恋に落ち、山を出ていった。あの頃の華巌は、それは幸せそうだった」
だが、とブサ兎は続けた。
「—————嫉妬だったんだろうな。法師は気が狂ってしまって、華巌を自分の手で作り出そうとした。そこにお前が生まれてきた。
まず最初に、お前の父を残虐した。華巌の心を奪ったのは、お前の父だからな。よほど憎かったんだろう。
そして、次に華巌と使用人を殺した。お前を利用するには、自分の手元に置くのが一番だ。だが、使用人が黙っては居ないだろう。
だから一部の使用人を見せしめに殺した。不穏に漂う所に、法師が言ったわけだ。
『御子が生まれてから不幸が続いている。その御子は災いの子だ』ってな。災いの子っていうのは、お前だ。
だが、それでは信じない人々に、法師は予言をした。『七日の晩が明けた頃に、奥方は死ぬ』っとな。奥方って言うのは華巌のことだ。
で、華巌が予言通りに死んだ。そしたら人は信用するだろう。その思惑通り、人々は法師にお前を受け渡した———————」
「ちょ、ちょっと待て!何で母上を殺すんだ!?母上が欲しいなら、死んだら元も子もないだろう!?」
通康の言い分はもっともだ。華巌が欲しいなら、何故殺した。殺したら通康の言葉ではないが、元も子も無い。