複雑・ファジー小説

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第一章完結』 ( No.32 )
日時: 2011/09/09 18:01
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

 第二章 桜の記憶
 暖かくなってきた夏。
 通康が湯築城に来て、丁度一か月経った。

「それじゃあ、レッツゴー!」

「うわあああああああ!?」

「ちょ、汐音!もうちょっとゆっくり!茂賀も調子に乗らないでェェェエ!」

『ゴメン、汐音様の興奮をなだめることは私には不可能なのです!』

「騒がしい少しは黙らんか!」

 何時も通りの景色。馬の茂賀に乗っているのは、汐音と通康と汐音の兄通宣。と、ブサ兎もといもののけさん。汐音は何時も通りに興奮しており、通康は何時も通りあまりの速さに叫びを上げ、通宣は汐音をたしなめ茂賀に他力本願し、茂賀は調子に乗り、もののけさんは酒をしっかり持ち叫びを上げている通康を叱った。

 今日は大三島で花見をしないか、と汐音の幼馴染が話を持ちかけてきた。丁度季節的でいいな、と思った汐音は通康と通宣を誘い、ついでにもののけさんも来たわけである。酒持参で。

 だが、湯築城から大三島まで行くには距離がありすぎる。その為、普通の馬ではなく時速百二十キロの速さを誇る茂賀に乗ることにしたのだ。

 一休憩する為、通康たちは海沿いで止まった。

「ハア、ハア、ハア」

「・・・大丈夫か?」

 通康の真っ青な顔に、通宣が心配しそうに声を掛ける。

「あ、ああ。大丈夫だ」

「そうか」

「ご、ごめんなさい!でも、着いたら綺麗なんだよ、大三島!もう見えているけれど、着いたら着いたらで綺麗なんだから!そこに咲いている桜も、ね!」

 通宣に続いて汐音も言う。汐音は申し訳ない顔になったり、興奮した顔になったりやたらと表情を変えることが多い。

 通康は通宣と汐音には敬語を使わない。前までは使っていたが、二人に止められた。
「肩ぐるしいのは嫌いだから」と言われ続け、始めは反対していた通康も、しぶしぶ納得した。最初は舌を噛んだり異和感があったが、やっと異和感が消えた今日この頃。

「しかしあれだな。良く海の真ん中に桜が咲けたもんだ」

 もののけさんが不思議そうに言う。確かに、と通康は思った。島と言うことは、潮風に当たっているハズだ。山桜が潮風に耐えきれるとは思えない。

 その疑問は汐音が答えた。

「うん、そうなんだけどさ。あそこは神の島って言うから。何か結界が張ってあるみたい」

「・・・そんな神聖な場所に、もののけさんが入っていいのか?」

 通康が心配しそうに言う。

「ああ、大丈夫。社には近づけないけど、他の所は妖ウロチョロしてるから」

「なんだかなあ・・・」

 と、納得しない通康だった。

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第二章更新中』 ( No.33 )
日時: 2011/09/09 18:33
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

 取りあえず一休憩が終わり、一行は大三島へ向かう。
 龍の背中に乗って。

「・・・・・・・・・」

「あれ?どうしたの、顔色悪いよ?」

「何で龍に乗ってるんだ・・・」

 通康の突っ込みに、汐音がボケで返した。

「え?だって船で行くより早いでしょう?流石に馬である茂賀には海を渡ることは出来ないし」

「いや、そうだが!普通龍に乗ること自体が摩訶不思議だろ!?」

「こいつに突っ込むだけ無駄だと思うぞ、通康。こいつは常識に囚われない存在なんだ」

 ポンッと、通宣が通康の肩に手を乗せた。流石兄。妹に付いているだけある。

 するといきなり、大きな声が通康の頭に響いた。

『失礼な!姫様に敬語も無しに!気安く話すな!』

「うわ!?」

 ビックリして、通康は龍の背から落ちそうになった。
 通康は見渡した。今見渡して居るのは、通康と汐音と通宣、そしてもののけさんに人間姿の茂賀だけ。

 では、声は何処から?

「こら、金龍。そうやって敵意を持たない」

 汐音がたしなめる。

「こ、金龍って・・・前言っていた、十二支の?今乗っている?」

 通康が聞くと、汐音は頷いた。

「うん、そう。龍の神の金龍」

『姫様、そのような口の利き方は・・・!』

「いいじゃありませんか、金龍。今は楽しむ時間なのですよ?」

 叱ろうとした金龍を、人間姿になった茂賀がなだめた。
 茂賀の姿は、肌の色が褐色で、肌よりも少し黒い栗色の髪を高く結い、馬の尻尾のように揺らす。着物の裾と袖を短く切り、顔はえくぼの似合う笑顔だ。確かに、前汐音が言った通りに美人である。


『うッ・・・』

 金龍は口をつぐんだ。これは金龍の負けだ。

「流石茂賀!十二支の二番目に強い女!」

 通宣がはやしたてる。

「お褒め頂き光栄なのです、通宣さま」

 ニッコリと、茂賀は微笑んだ。












「・・・遅いなあ」

 港で二人の男女が佇んで居た。
 一人は少女。十歳前後だろう。紅白の巫女服を来て、長い髪を潮風になびかせている。
 もう一人は少年。通康と同じぐらいの歳で、刀を持っている。

「もう、来てもいい所なんだけれど・・・」

 少女が言うと、少年は答えた。

「まあ、城からこの島まで来るには結構な距離がありますし、気長に待ちましょう」

「うーん。あの子なら十二支使って来ると思うんだけど・・・」

 少女の言葉に、まさかあと少年は笑う。

「まさか、そんな事が出来る訳・・・」

「あ、来た」

 少年の言葉を、少女は遮った。

「え?何処です?」

「ほら、あそこ」

 少女が指す方向を、少年はじっと堪えて見る。
 確かに、客人は来ていた。——————龍に乗って。