複雑・ファジー小説
- Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第二章更新中』 ( No.36 )
- 日時: 2011/09/09 21:09
- 名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)
「ゴメン、待たせちゃって!」
金龍から降りた汐音は、すぐ少女の元へ走った。
「遅かったわ。金龍で来たんじゃないの?」
「うん、そうなんだけど。まあ、見逃してよ」
「仕様がないわねえ」
会話に花を咲かせる汐音と少女。
「あら?見かけない人が居るわね。この方は?」
少女が後ろに居る通康に気付いた。
「あー、この方は村上通康。私の世話係みたいなものだよ。
通康、この子は大祝鶴姫。巫女で、色々視えるんだ」
「えッ・・・」
通康は少し驚いた表情を見せた。
「あら、貴方も視えるんですか?」
鶴姫が微笑む。
「あ、はい、そうです・・・」
少し、声が小さくなった通康。
ふと、通康は前の自分を思い出した。
———あの頃は。ずっと一人だけ不幸だと思っていた。
『やーい、嘘つき』
『疫病神、出てけー!』
『どうしてそんな嘘をつくの!』
脳裏に刻みつけられた、蔑みの声。時々頭に響く。
自分だけ不幸で、自分だけにしか視えなくて、周りに八つ当たりしていた頃の、自分。————汐音と言い、通宣といい、鶴姫といい、何故こんなに視える人が沢山居るのに、前の自分は自分だけにしか視えないと思っていたのだろう。
自分だけが苦労していると思っていた。自分だけが辛い目に遭っていると思った。
だが、自分と同じぐらい苦労しているハズの汐音や鶴姫たちの笑顔に、前の自分がだんだんと、恥ずかしくなっていった。
「・・・康、通康」
汐音の声に、はっと我にかえる通康。
「大丈夫?痛そうな顔していたよ?」
「あ、うん。大丈夫」
通康は言うが、汐音はもっと心配しそうな顔になった。
「本当に?痛い時は、痛いって言ってね?」
通康は思った。
————どうして、この少女はこんなにも優しいんだろう。どうして、俺は自分のことしか考えられないんだろう。
比べれば比べるほど、自分がどんなに愚かだったのか判る。
通康は汐音が羨ましく、そして、自分に失望した。