複雑・ファジー小説

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第二章更新中』 ( No.62 )
日時: 2011/09/13 19:16
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

           ◆
「うわあ・・・」
 鶴姫たちは、そう呟くしか出来なかった。

 先に着いた鶴姫たちが目にした光景は、まさに地獄絵図のような光景だった。
 木々は枯れ、まるで地獄のような業火が木々の周りを囲んでいる。
 その木の幹に、真っ黒な女の子が寄りかかっていた。焦げたような真っ黒な少女。真っ黒な頬に、光る涙があった。

 そして、周りには小鬼たちが居た。見ると、小鬼たちが火を放ったようだ。
「・・・これは、地獄から来た使者の仕業・・・?」
 鶴姫が呟いた。
 どうやら、あまりにも邪気が強いので地獄から使者が来たようだ。小鬼たちは、地獄からの使者のようだった。

「ちょ、これどう言うことだ!」
 妙が声を荒げる。

『この者は悪霊なので。地獄へ連れていくのです』
 シャンと鈴のような声が、頭の中に響き、答えた。

 姿は見えない。恐らく地獄の中で高貴な地位なのだろう。高貴な存在は、何処の世界でも人前で姿を見せないのがしきたりだ。

 鈴のように上品な声の持ち主は続けていった。
『今日、この者は辺りの命を奪えるほどの悪霊になりました。この者は邪神の妖力並みです。こうなった以上、成仏は叶いません。この者は地獄へ連れて浄化するしか方法は無いのです』

「・・・救うことが出来ないから消滅させる。そう言うことですか?」
 鶴姫の鋭い声に、声は黙った。肯定のようだ。

「そんなッ・・・!まだ判らないじゃないですか!」
 通宣が必死に言う。だが、声はすぐに言った。

『判らない、とおっしゃいますが、手遅れになるのはまずいのです。神にでも、救える者と救えない者が存在します。ある筈もない可能性を信じて手遅れになるよりも、さっさと片付けた方がいいのです』
 冷たい声だった。まるで、救えるハズが無い、期待するだけムダ、と言っているのように。

 鶴姫たちはぎゅっと唇を噛みしめた。口の中に鉄の味が広がる。

『・・・もうすぐあの木に炎が宿るでしょう。そうすれば消滅します。随分手こずらせられました。あの者の邪気が、こんなにも私の業火を跳ね返すなんて』

 ————もう、手遅れ?手遅れなの?

 木に近づこうとすると、業火の熱気が結界のように侵入を拒否する。ただでさえ、二十メートルも離れているのにこんなに暑いのだ。

 葵は泣いている。真っ黒焦げになって。
 泣いているのに、自分たちは何も出来ない。ここで見ているしかないのだ。

『・・・貴方達はそこで見ていなさい。これ以上近づくと、体が焼けますよ』

 そう声が告げた時だった。

 ビュウウと風が頭上を通り抜けた。かと思うと、炎の上に狼のような巨大な妖が居た。
 妖の背に人影があった。見覚えのある人影だ。
 目を凝らして見て見ると、背中に乗っていたのは、通康だった。

「————通康殿!?」
「通康!?」

 鶴姫たちの声よりも早く、通康ともののけさんは炎に突っ込んだ。目にも追えぬ速さで。

『!バカな、あの妖は何故あの炎に近づける!?』

 声は動揺していた。地獄の業火は、全て焼き尽くすのだ。木々も草も魂も。
 それなのにもののけさんと通康だけは燃えていない。

 通康はゴホゴホと咳をする。燃えなくても、煙と暑さで意識が朦朧としているのだ。
「しっかりしろ、通康。私が付き合ってやっているのだから、これしきのことでくたばるなよ」
 もののけさんが呟く。ああ、と生返事をした後、通康は叫んだ。

「鶴姫殿!汐音から伝言です!『“唄”を詠うから協力してくれ』だそうです!」

 ハッと、鶴姫は目を開いた。そして、炎に向かって大きな声で言った。

「それで、汐音は!?一体どこに!?」
「それはッ・・・!」
 通康が答えようとした時、煙と暑さが増した。どうやら、葵に限界が来たようだ。
 いきなり暑さと煙が増したので、通康は思わず失神しそうになる。だが、寸前で意識を取り戻した。
 だが、足の自由が効かなくなった。暑さにやられ、足は震え動こうとしない。動くのは手だけ。
 それでも通康は葵の元に行く。地面に手を付け、手で体を動かす。
 やっとのことで葵に近づけた時、桜彩なのか葵なのか、それともどちらもなのか、声が聞こえた。

———————さみしい、さみしいよぉ・・・。

———————怖い、怖い。

———————助けてぇ・・・。


 どうして、と通康は思った。
 ————葵は全く悪いことをしていないと思う。桜彩も、ただ一緒に居たいと願っただけだ。
 なのにどうして救われないんだ。どうして、不幸の結末になってしまうんだ。
 二人とも、ただ優しくありたいと願っただけなのに・・・!

 通康には納得出来なかった。こんな結末が、正しいとは思えなかった。思えなかったが、どうすれば二人が救えるか判らなかった。