複雑・ファジー小説
- Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第二章更新中』 ( No.67 )
- 日時: 2011/09/14 16:25
- 名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)
ここまで来てなんだが、どうやれば救えるのか判らない。でも、汐音の姿を見て、無理してまで何かしたかったのだ。
今やっと気付いた。———自分は、無駄なことをしているということに。
そうしている間に、どんどん炎は迫って来る。葵を守るように、通康は葵を抱きしめた。———せめて、少しでも助けれるように。
それがどんなに無駄だとしても、やはり通康は葵を助けたいと思った。
もののけさんも限界が来たのか、フラフラとバランスを崩している。
一人と一匹が意識を手放しそうになった、その時だった。
笛の音がした。
清水のような笛の音だ。朦朧としている意識の中、スッと耳に入る心地よい音。
聞いたことの無い曲だ、と通康は思った。————でも、何故か懐かしい。
————春夏秋冬
季節は私たちを置いていき 流れていく ゆるやかに・・・
その笛の音に合わせ、鈴のような歌声が聞こえた。
一体誰が?と思うが、通康は炎の熱と煙のせいで体の自由が効かない。
————あの陽だまりのような 暖かさがずっと
続いていくと 信じていた
何時も貴方が花を見せてくれたのに
私は 貴方のようにはなれなかった
————・・・気のせい、だろうか。歌が始まってから、だんだん炎の勢いが弱まっているような気がする。
だが、それは通康の気のせいではなかった。どんどんと、業火は収まっていくのだ。
それだけではない。あんなにも燃え、枯れていた草木、邪気で死んでしまった動物たちも、全て元通りとなったのだ。
『そ、そんなッ・・・!』
声が動揺する様子が、通康は感じた。
通康も、桜彩も、そしてもののけさんも、だんだんと体が楽になっていくのを感じた。あの、自由の利かなかった足も、だんだんと戻っていくのが実感出来た。
そして、桜の木も、真っ黒焦げになった葵も。葵は、だんだん色彩がはっきりになっていった。
————そして 気づくのは遅すぎて
全て失ったその時は
絶望と失望の闇で 貴方と見た花は無いよ
当然の罰なのかもしれない 貴方に全て背負わせた・・・
通康は顔を上げる。通康のすぐ傍で、汐音がクルクルと舞を踊っていた。
ハッキリ言って————全然気付かなかった。もうちょっと、遠くでやっているとばかり思っていた。というか汐音が舞で歌を歌っているということだけでビックリしている通康だ。ついでに、笛を吹いていたのは鶴姫だ。
汐音は蒼い狩衣を着て扇と太刀で舞っていた。銀の髪が鋭く舞い、蒼緑の瞳は何時もよりも深みを増している。
その踊りは幻想的で——————目が、離せない。
————けれど 私は貴方に言葉をあげたい
今度は貴方の言葉を 聞くから
貴方が見せてくれた花は何時か
実を結んで種になるでしょう
お願い今度だけ 私に
好機を与えてください
貴方を闇に突き落とした 私はもう間違えない
貴方のぬくもり 忘れてないよ
だから私も 差し伸べる