複雑・ファジー小説
- Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 『第二章更新中』 ( No.69 )
- 日時: 2011/09/14 17:35
- 名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)
『・・・すみません、通康様、桜彩さん。お手数をかけてしまいました。こんな危ない目に遭わせてしまって・・・』
葵が、詫びた。
どうやら悪霊の邪気が祓われたようで、ちゃんと意識があった。
葵は苦痛に顔を歪め、拳と肩が震えていた。————今さっきまでが悪霊といえど、元々はただのか弱い女の子だったのだ。
その言葉を聞くと、桜彩は通康の体から離れた。
桜彩は通康よりも少し背が低い、銀髪赤眼の少年の姿だった。
『ゴメン、葵。・・・全部、君に寂しさを背負わせてしまった』
桜彩が俯いて詫びると、葵は少し頬を緩ませて、ゆるゆると首を横に振った。
『いいえ。・・・貴方といっしょにいた時間は、とても楽しかった。確かに、辛かったし寂しくもあったけれど。・・・貴方が居てくれたから、楽しいという時間が増えたんです』
だから、と葵は続けた。
————だから。もう少し、私のわがままに付き合ってもらってもいいですか?
『もし、貴方がいいと言ってくれるなら・・・』
一回、目を閉じてゆっくりと、葵は言った。
————花のような優しさを くれた貴方の
毎日が輝く 楽しかった
もう一度望むなら その時間を
貴方と過ごしたい 歩いていたい
『—————また、貴方と一緒に見ていきたいです。今度は、今までよりもっともっと幸福な時間を歩めるように』
微笑んで、彼女は言った。
————春夏秋冬
季節は私たちを置いていき 流れていく ゆるやかに
だからもう泣かないで 辛い顔しないで
今度は幸福な時間を・・・
「結局、桜の木は枯れてしまったね」
汐音が、枯れてしまった桜の木を見て言った。木の隣には、葵の墓を作った。
————あの舞の後、葵と桜彩は淡い光を放ちながら消えて行った。幸せそうに、微笑みながら。
きっと、成仏したのだろうと通康たちは思っている。桜彩も、自分の命が残りわずかだからこそ、通康たちに頼ったのだろうと。
「・・・俺、役に立てなかったなあ」
通康が呟くと、もののけさんが諭すように言った。
「阿呆。桜彩を説得したのはお前だろう。あの時お前が桜彩を説得しなければ、葵と桜彩は消滅し、あんなふうに幸せそうな顔にはならなかったんだぞ」
「そうだけどさ—————」
通康の言葉を、もののけさんは遮った。
「人とは愚かでか弱いものだ。一人では全て解決することは出来ないし、理不尽に振り回されたり嘆いたりする。そしてだんだんと自分は不幸で可哀そうな存在と思ってしまう。・・・だが、一生懸命に誰かを思っていれば、例え歪んでいたとしても、ちゃんと望んだ形で叶う。優しくあろうとすれば、どんなに真っ暗でも必ず向こうから手を差し伸べてくれるのさ」
「・・・なんかもののけさんがオジン臭いことを言っている」
「なぬぃ!?せっかく格好付けたのに、何故台無しにするんだ、通康!」
通康の言葉に、怒るもののけさん。そこに、汐音が止めた。
「ハイハイ。喧嘩は後でね。妙がまた怒って竹刀振り回すよ。そして鶴姫が黒魔術行うよ」
その言葉に、通康ともののけさんは屋敷に向かって疾走した。
————さっきはオジン臭いって言ったけれど。
その通りかもしれない、と通康は思った。その通りであったらいいな、という希望もあった。
今は中々思うようにはいかないけれど、中々優しくなれないけれど。
時には裏目に出るし、余計なおせっかいになってしまう時もあるけれど。
何時か、優しくなれたら—————・・・。
もののけさんと走りながら、通康は思った。
「・・・ったく、私を置いて行かないでよね」
置いて行かれた汐音は、ため息をついて振り向く。
「・・・あ」
枯れていたと思っていた桜の木の株に、枝が伸び若葉が付いていた。
ちょこんと芽吹いている若葉の様子に、フッと微笑むと、汐音は言った。
「さーて、私も行きますか。妙の竹刀しごきと鶴姫の黒魔術の実験台にされるのはゴメンだわ」
お話は、淡く咲く桜の季節だった。
———————————————————————————
王翔さんへ
これで二章は完結です。
歌はチョコチョコと大好きな歌詞からとってきましたw(←いいもん、パクリじゃないもん)
ここまで読んで頂き、有難うございます。三章でも、付き合ってくれたら嬉しいです。