複雑・ファジー小説

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 【第二章完結】 ( No.71 )
日時: 2011/09/14 20:37
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

小話 〜救える者と救えない者の境〜

「ふう・・・」
「おや、どうしました?火天どのがため息をつくとは。天女の顔が、もったいないですYO?」
「わざわざ英字にしなくてもいいと思いますけれど・・・」
 火天は同僚のボケっぷりに呆れ、またふうとため息をつく。

 今さっきの興奮が、覚めないようだ。
 悪霊となった娘を地獄へ連れていく。それが自分の出来る『優しさ』だと思っていた。
 もうあの娘は救えないだろうと。彼女の心境は知っている。可哀そうと思ったが、こればかりはどうしようも無いと思っていた。
自分の業火で燃やし、責め苦の炎で一生苦しむ。決して救うことにはならなかったが、そうするしか方法は無かった。

 だから———————水鏡の向こうで見たあの少年と少女の力には、驚いた。無力な人間のくせに、見事悪霊を成仏させた。
 いや、無力だったからこそ————悪霊の気持ちが判って、救えたのかもしれない。一生懸命にその人のことを考えたからこそ、助けることが出来たのかもしれない。

「・・・結局は、その人の気持ちにならないと救えないってことね」

「ん?何か言ったか?」

「何も」

 人間は本当に、弱くて愚かで優しいものだわ—————————。
 そう微笑んだ彼女は、何処か淡く咲く桜のようだった。