複雑・ファジー小説
- Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 【第二章完結】 ( No.76 )
- 日時: 2011/09/15 18:48
- 名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)
第三章 牛の刻の雨
カーンカーン・・・と牛の刻の闇に響く。
冷たく、哀しく———————・・・。
◆
雨が降る。
梅雨の時期がやってきた。
「なあ、汐音」
「何、妙—?」
「この世で一番苦しい死に方は笑い死にと溺死だってさ!」
「嘘ッ!笑い死にって苦しいの!?」
「人が走り過ぎて死ぬようなもんだから、苦しいんじゃね!?」
妙と汐音は絶賛グロ話中だった。ワイワイと笑いながら会話する。
————ぶっちゃけ、シュールな光景だった。音声を抜かせば、天使のような映像なのに。
と、隣で聞いていた十二支の兎羽は思ったが、そう言うと必ず妙の竹刀しごきが来るので黙っていた。
外を見ると雨がバケツをひっくり返したような雨だった。ザアザアと、容赦なく叩きつけるような雨。
「・・・凄いねえ」
「うん、そうだな。こんな日に、通康と鶴姫はどこに出かけたのだろう」
そう。通康と鶴姫は何処かに行ってしまった。もののけさんがぶーぶー文句を言いながら付いて行ったから、恐らく妖関係であろう。
「・・・大丈夫かなあ」
汐音が外を見ながら呟く。
「大丈夫じゃないか?あの二人だぞ?」
「そうだけどさあ・・・」
「体の弱っちい通宣じゃないんだからさ、平気だと思うぞ?」
「そりゃお兄様は邪気とかに当てられやすいけれどさあ・・・って話ずれてる!・・・まあ、あの二人なら問題ないか」
「そうだそうだ。あ、今日な、五龍姉さんが・・・」
「五龍姉さんがどうしたの?」
五龍とは毛利元就の娘だ。まだ十というのに、宍戸家に嫁いだ娘で、妙から見れば母になる。
だが、妙は宍戸家の血を引いた娘ではない。妙は捨て子で、隆家に拾われたのだ。とは言っても、隆家はまだ十五歳だが。って話がずれた。とにかく、妙にとっては五龍も隆家も兄姉のようなものなのだ。
「あのな、五龍姉さん、最近元気が無いんだ・・・」
「何でだ?」
隣で聞いていた兎羽が不思議そうに聞いた。それもそのはず、五龍は妙よりも男勝りで勝気な女性だった。妙も「姉さんの勝気には負ける」と何時も零している。
そんな人が、何故元気が無いのだろう。
妙は心配そうに顔を歪めて言った。
「・・・最近、黒い塊みたいのが五龍姉さんに纏わりついていて」
「・・・それって、何かに取り疲れているんじゃないの?」
汐音が聞くと、妙はゆるゆると首を振った。
「そんなのじゃないんだ。・・・何て言うか、気持ち悪い空気が姉さんを蝕んでいるようで・・・師匠にも聞いてみたけれど、病気じゃないって・・・」
師匠とは妙の医術の先生である。妙は医術師になろうと努力中だ。
妙の師匠は結構凄腕の医術師なのだから、その人が言うように病気ではないのだろう。
「・・・・・・今度様子を見に行くね」
「そうしてやってくれ」
不安の影が、少し迫った———————————。