複雑・ファジー小説

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— ( No.8 )
日時: 2011/09/08 21:18
名前: 火矢 八重 (ID: AHkUrUpg)

第一章 運命の歯車は止まらない

「さあ、レッッゴー!」

「ちょ、ま、ひひひひ姫様!?」

 馬に乗った少女は少年を後ろに乗せ、凄い速さで道を走った。

 銀色の髪を持つ少女は、九歳。通康より年下なのに、何故か通康が振り回されているように見える。

 どうしてこんな目に—————と、元服したばかりの村上通康は思った。

 話は数時間前に遡る。



 村上通康は、昨日元服したばかりだ。
 十四歳と、遅い元服をした通康は、海賊である河野家当主通直に呼ばれた。

 通康は何回も人に捨てられながらも、自分が生まれた屋敷に戻ることが出来た。だが、屋敷には誰も住んでおらず、通康は荒れ果てた広い屋敷を一人で暮らしていた。

 その地で会ったのが、河野家当主河野通直だった。通康の顔はお岩そっくりで、通直は一目見て康吉の息子だと判ったらしい。そして、今度は通直に拾われた—————。

 通直は見鬼の才を持ってはいないが、父親が『視る』ことが出来、また息子や娘も見鬼の才を持っているので不思議なことには耐性がある。その事も知っていて、通康を家臣として受け入れた。

 通直にしては息子が出来たような感じで、通康も通直に感謝をしている。



 さて、通直が通康を呼んだ理由は何だろうか。

 通康が部屋に入ると、通直と小さな娘が居た。

—————銀色の、髪。

 まず、目に止まったのがやはり、銀色の髪だった。

 通康には、珍しかった。妖では良く見たが、人の髪が銀色とは。おまけに瞳の色は蒼緑である。銀色の髪と蒼緑の瞳は、綺麗な顔立ちをより一層引き立てた。
 一瞬妖なんじゃないかと、通康は疑った。だが、ニコリと通直に微笑む小さな少女は、やはり人のようだった。

「ああ、まずは座りなさい」

 通直は少し頬を緩めて促せた。

 通直は無口に近い性格だが、心は誰よりも広い。ワケ有りの人でも居場所を作る、そんな人だった。

 だから無口でも、そこまで強張る必要はない。無いのだが、人とあまり触れ合わなかった通康はガチガチだった。

「まだ三日しか居ないが、ここには慣れたか?」

 通直が聞くと、通康は強張った口調のまま、それでも礼儀正しくはっきりと答えた。

「はい。皆良くして頂いて、大分溶け込みました」

 そうか、と破顔する通直。

「今日は、娘を紹介しようと思ってな」

「娘・・・?」

 通康の視線が少女に向けられる前に、少女は綺麗にお辞儀をした。

「汐音、と申します」

「汐音の、まあ世話係となって欲しいのだ」

「世話係、ですか・・・」

 頭を上げた少女は、ニッコリと、通康の目を見て笑った。
 その笑顔を見て、心臓がトクン、と一つなった。

「———いい娘御さんですね。世話係なんて・・・」

「こいつを甘く見ると、痛い目に遭うぞ、通康」

 見ると通直は笑っている。父親の表情を見た汐音は不服そうに頬を膨らませた。

「———まあ、いいや。お父様、通康を借りますね」

「へッ?」

「ああ、良いぞ。行っておいで」

 汐音がいきなり通康の手を握った。通直は笑いながら了承する。通康はなんのことやらと、全く判っていない。

 と、汐音は通康を引っ張った。見かけによらず、力が強い。引っ張られた通康は、ますます判らなくなった。

「そうだ、貴方馬は乗れる?」

 廊下を走りながら、汐音は訊ねた。
 通康は素直に答えた。

「馬・・・?申し訳ありません、乗れません」

「え、馬乗れない?」

 ビックリした顔で、汐音は立ち止まる。

 通康は今まで一人で暮らしていたので、馬は乗れない。普通武士や海賊の者は男女問わず乗りこなすものだ。

 だが汐音は笑って、

「じゃあ、私の馬に乗りましょう」

と、通康に言った。