複雑・ファジー小説

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 【参照200感謝】 ( No.88 )
日時: 2011/09/17 10:20
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

 
         ◆

 どうして、こんな風になってしまったのだろう。
 どうして——————————?


 よく晴れた日。妙から五龍の様子を聞き、気になった汐音は五龍の様子を見に行く為、金龍に安芸国まで乗せてもらった。

「大丈夫ですか?」

 汐音が聞くと、五龍は笑顔で言った。

「ああ、なんとか」

 だが、その笑顔すら苦痛に歪んでいるように見えた。布団を掛け上半身だけ起こしている五龍は、どう見たって元気では無い。

 妙が言った通り、五龍には黒いモノが取り憑いている。だが、妖のものの類では無い。
 汐音は、黒いモノが五龍を不調にさせているのだと判った。理屈では無い、勘と肌で感じたのだ。

 —————この嫌な感じは・・・憎悪と、嫉妬?

 吐き気がしそうな『負』の感情。誰かから『負』の感情を、五龍は受けたようだ、と汐音は推理した。

「あの、五龍姉さん。誰かから、酷く憎まれたことはありませんか?」

「え?うーん、竹刀を振り回したり、バリバリ悪口雑言吐いた記憶はあるけれど・・・」

 汐音は少し固まった。————流石妙の養母。十にしてそこまでするとは。
 と、ちょっと感心していた汐音だが、すぐに聞きなおす。

「他に、妬まれるようなことは?」

「いや、それは心当たりは無い・・・けれど?」

 どうしてそんなことを?と不思議そうに聞く五龍。

「いえ・・・何でもないんです。あの、もう帰らなければならないので、これで失礼します」

「え、もう?もうちょっとゆっくりしたって・・・」

「いえ、実は父には内緒で来ちゃったんです。そろそろ帰らなければバレちゃう。失礼します」

 そう言うと、汐音はバタンと戸を閉めた。

 部屋から出ると、汐音は十二支二人を呼んだ。

「鉄鼠、白貞」
「御意」
 出てきたのは白髪の青年と天女のような少女。

「・・・五龍姉さんの黒いアレ、何だと思う?」

「恐らく、呪いでしょうな」
 鉄鼠が答えた。

 白貞も続けて言う。
「丑の刻参りでございましょう。幸い、期間の間に人形を浄化した者が居たお陰か、あの程度で済んだかと」

「呪い・・・やっぱり。誰が呪っているか、見当つく?」

「さあ。確かに五龍様は勝気な女性ですが、憎まれ嫉妬されることはしていないと思いますが・・・」

「それに五龍様はまだまだ十。恐らく、宍戸家か毛利家を貶めようとする輩の仕業では」

「・・・そうか、そう言う点もあるね」

 いくら五龍が竹刀を振り回そうが悪口雑言で問題を起こそうがまだ彼女も十。自分と一つしか違わないのだ。そこまで憎まれることは無いだろう。となれば宍戸家か毛利家を貶めようとしたのが妥当だろう。

「でも、それだけじゃなかった。何ていうか、五龍姉さんに向けられたものじゃない・・・」

「汐音さま?」

「五龍姉さん付近の誰かを憎んだ感情・・・そんな感じだった」

 そう、あれは————————まるで、五龍姉さんの周りに居る誰かを呼ぼうとしてるような。

「・・・上手く言えないんだけど、そんな感じなの」
 汐音が説明すると、ふむ、と鉄鼠も言った。

「汐音様がそう思うなら十中八九間違いないでしょう。貴方様の勘はそこらの巫女より遥かに凌駕していますから」

「では、五龍様は私と翁がお守りします。何かあったら、すぐに連絡しますので」

「お願いね」
 そう言うと二人の神は姿を消した。

 この時、汐音はまだ気づいていなかった。
 この始まりが、自分の過去と結びついているなんて。