複雑・ファジー小説

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 【参照200感謝】 ( No.91 )
日時: 2011/09/18 13:58
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

            ◆
 ねえ、そこの貴方。貴方よ、貴方しかいないじゃない。
 ここで、勝負をしてみない?

 簡単なことよ、鬼ごっこをするだけだから。
 まずは貴方が鬼ね。私を捕まえてみせて。私、これでも足が速いんだから。
 じゃあ、よーいどん!



 あら、私捕まっちゃったわ。
 足速いのね、貴方。立派な毛並だけじゃないのね。
 アハハ、冗談よ。貴方がカッコイイのは私だって知っているわ。そんなに拗ねないで。

 じゃあ、今度は私が鬼ね。絶対に捕まえてやるんだから!




 あ、そうそう。言い忘れていたわ。
 もし私が来なくても立ち止まったりしないでね。ハンデは無しだから。
 真剣に勝負しましょう、じゃあまた後で。














           ◆
「なあ、鶴姫・・・」
「何?」
「俺、丑の刻参りについて知りたいって言ったよな?」
「ええ、言ったわね」
「大三島の土地図が知りたい、とも言ったよな?」
「言ったわ」
「じゃあ、何で・・・」
 通康は区切って叫んだ。


「何で妖がうじゃうじゃいる所なんだああああああああああああああああ!?」


 鶴姫が連れてきたのは、『妖文献所』と書かれた看板が付いた古臭い建物だった。その名の通り妖が出入りしている。

「だってここから黒魔術発掘したもの」

「いやいやいや!?アンタ巫女でしょ!?巫女が妖と親しくていいのか!?」

「いいんじゃない?ってかさっさと入りましょうよ」
 ずかずかと入る鶴姫。

その様子を見て、通康は思った。
——————ダメだ、もうこの人に言っても何も通じない。

仕方が無いのでもののけさんと一緒に入る通康。
 
周りを見ると妖だらけ。猫又のような妖、皿に憑いた九十九神、ろくろ首・・・・などなど。
「・・・凄いな、ここ」
「ああ、妖だらけだな」
 通康たちが色んな意味で感心していると、鶴姫は可愛らしい女の子と話していた。
 
茶髪で長い髪をうなじのところで二つにし、三つ編みをし、丈の長い上着の下には淡い水色のチャイナ服を着ている。
「・・・じゃあ、献妃ちゃん。よろしくね」
「お任せください、鶴姫さま!」

 喜んだ献妃は急いで本棚に向かった。

「なあ、あれは?」

 気になった通康が聞いてみる。

「ああ、あの子は献妃ちゃん。文車妖妃だよ。ここの従業員」

 通康はまじまじと見た。梯子の上に乗り、いそいそと調べている献妃はどうみても人のようにしか見えない。

「へー、やっぱ妖の友達がいるんだなあ」

「あの子はいい子だしね。敵意が無いなら友達よ」

 そう言って、鶴姫は視線を通康に向け直した。

「貴方だって、同じ事を思っているでしょう?人に蔑まれ、妖に騙され、でもどちらにも暖かな優しさを知っている貴方になら」