複雑・ファジー小説

Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 【参照200感謝】 ( No.94 )
日時: 2011/09/19 20:34
名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)

 通康が鶴姫の言葉に答えるのに、少し間があった。

「・・・それは、判らないな」
「え?」
 鶴姫の不思議そうな声に、通康は俯いた。
 もうちょっと別の言葉があったかもしれないが、通康はこの言葉に落ちた。

 —————最近、人とも妖とも会うことが多くなった。優しさも暖かさも触れてきた。そのお陰で、少しずつ俺の心もほぐれていった。
 でも、昔のことがあったせいか、疑うことも多くなった。

『役病神が!』
『気持ち悪いこと言わないでよ!』
『死んでしまえ、死んでしまえッ・・・・!』

何処まで信じていいのか、何処まで信用してもいいのか判らなくなった—————————・・・。

 黙って俯いている通康に、鶴姫ともののけさんは献妃が来るまで何も声をかけなかった。





























          ◆
「えーと、何かしらこの状況・・・」
「・・・あたしに聞くな」
「いや、だってアンタの案内で来たじゃない」

 鶴姫と通康が妖文献所で調べ物をしている頃、汐音と妙は穴に落ちていた。
 それも、深さ二十メートルの穴に。

「いやー、まさかただ単に師匠に会いに行くだけでここまで迷子になるとは・・・」

「何で迷子になるのさ。毎回毎回迷子になってるのかアンタは」

「バッカヤロー。人間なんざ誰もが路頭に迷う子羊よ」

「何気にカッコよく言ってるけど、迷子になったことはあんまり誇れないからね?ってか人って言ってるのに子羊って例えが全く視えないよ」

 幼馴染とのボケに一々ツッコミを入れながら、汐音はため息をついた。

「しょーがない、おーい兎羽—」

 汐音が空に向かって言うと、何も無い空間から少年が姿を見せた。

 整った顔に、悪い目つき、真っ白な小袖蒼い袴をはいた、汐音よりも少し大きな少年の頭には、悪い目つきには似合わないピョコンとしたうさ耳があった。

「何だ、何か用か」

 不機嫌そうな声。まさしく、反抗期の少年と言うべきか。
 汐音が言う前に妙が気がついたようで、ポンと手のひらを叩いて言った。

「おー、兎羽か。脚力を借りるんだな」

 妙の言葉に、爽やかな笑みで汐音が頷く。

「そう言う事。さ、私たちを乗せて」

 爽やかに言う汐音に、反抗期の兎羽はいらついたのか反論する。

「何で俺がお前ら二人乗せなきゃならねーんだよ!」

 がおう、と喰いつくような勢いで反論した兎羽。すると汐音は妙の方を振り向いて、

「妙!こいつを竹刀でしごいていいよ!」
「おっけー!」

 何処から持ってきたのか、妙の右手には竹刀が。

「やりますやりますやらせてください」

 顔を青ざめて土下座した兎羽だった。