複雑・ファジー小説
- Re: 大三島の風から—妖と海賊の物語— 【参照200感謝】 ( No.97 )
- 日時: 2011/09/23 17:41
- 名前: 火矢 八重 (ID: 6DNfJ1VU)
「・・・そもそもさあ、何でこんな森の奥に住んでいるんだよ」
兎羽が不機嫌そうに妙に訊ねる。
道らしき所はない。枯れた木や草があって、ボキボキと折らないと通れない道だ。
「しょうがないでしょ、相手はあの師匠なんだから」
妙が答えた。
今日は妙が自分の師匠を案内すると言ってここまで来たのだ。妙は医術師のたまごで、師匠とはその医術を教えている師匠である。
何でも、その人は妖の血を引いているようで、重体の人間の怪我はおろか、呪いの解き方や妖の怪我も自身が引き受けていると言う。妙曰く「妖の傷も治してみたい」と言う事から、師弟の関係になったそうだ。
その為、都会よりも妖が住んでいる森の中がいいと言うわけだ。
まあ確かに妖の方はいいっちゃいいのだが、師匠を頼るモノは妖だけではなく人も含まれるだろう。人にとっては、充分迷惑というか、不便なのである。
「・・・しかし、どうやって暮らしているんだろう。人なんだから、やっぱ用具とか買うのに不便じゃない?」
「その心配は無用。師匠は妖を平気で使う人だから」
妙の言葉に、汐音は成程と納得した。妖に用を頼めば不便じゃないと言うことか。
————もしかしたら人からの依頼の伝達も、妖にしているのかもしれない。そうすれば、自分から里に下りればいいだけなのだから。・・・ふむ、今度兎羽で試してみよう。
何て良からぬことを考えている汐音の隣で、兎羽は背中に悪寒を感じた。
「ここだよ」
「「うわあ・・・」」
「なにその感想」
二人の思わず出た言葉に妙が突っ込む。
「だって・・・なあ」
「だって・・・ねえ」
兎羽と汐音は交互に顔を見合わせた。
「はっきりしろよ、全く」
妙が焦れたように言うと、兎羽と汐音は揃って口を開いた。
「「こんな家、我々は視たことないんですが?」」
師匠の家は、石で出来ていた(いわいるレンガというものだけど)。大きな池があり、真ん中には橋がある。向かうと島があり、そこに家があるのだ。橋も石畳で、家がある島の他にも幾つか島があり、その島には見たことのない花が様々な色で淡く彩られていた。池には水連が咲いており、淡い桃色の花から漂う匂いは心を落ち着かせる。
中に入ると玄関は無く、そのまま土足で上がれる。床には飾り石があり、ちゃぶ台よりも大きく縦長い机と幾つもある椅子(この時代にはほぼないけれど)。
奥には寝床らしきところがあった。木で出来ており、少し高めで小さな柵がある変わった寝床だ。(現代のベッドなのだが、この時代では見られない為汐音には判らない)。寝床には布団と思われる清潔で薄い敷物が敷かれてあった。
そして珍しいのが窓だ。窓には透明な壁のようなものがあった(いわいるガラスなのだが、汐音たちが知っているのはせいぜい障子ぐらいだ)。窓枠や欄間には、幾重にも花びらが重なる芙蓉の透かし彫りがほどこされていた。
「・・ねえここ現世?現世だよね?極楽じゃないよね?」
幻想的な場所に混乱している汐音が聞くと、妙が答えた。
「極楽じゃないけど、ここは幾つもの世界が重なっている世界」
「重なっている世界?」
「もっと判り易く言うとここは現世であって現世ではない。あの世でもあってあの世でもある。沢山の世界がここに繋がっているんだよ」
—————判ったような、判らない様な。
汐音には何が何だか判らなかった。ただ一つだけ、確かに判ったことは、
————世界って広いなあ。
と言うことだった。