複雑・ファジー小説
- Re: ■菌糸の教室■ ( No.29 )
- 日時: 2011/10/26 23:24
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 4pf2GfZs)
翌日。
さっき寝たのが確か朝の10時半。そして今目覚めてみると朝の6時半。……どうやら俺は、あれからずっと眠っていたらしい。軽く笑える。
けれどこんなにたっぷりと寝たお陰なのか、体がとても軽かった。気分もすごくいい。それに、昨日は鬱になるくらい灰色だったこの部屋も今は明るい朝日に照らされていて、居心地がいい。
いい気分で身支度を済ませ、学校へと向かう。
朝の忙しい空気が、車の騒々しい音が、スクランブル交差点の足音が、なんだかとても懐かしかった。
懐かしいだなんて、ちょっと大袈裟だけど今日は普通に学校に通えるんだと思うと嬉しかった。
学校に着いて、自席に着くと何か違和感を覚えた。
「あー峰くん?」後ろから、戸惑うような声が聞こえたので振り向けば、そこには柚木が立っていた。「そこ、私の席なんだけど。」
「え?」
「あ、そっかぁ。昨日峰くん休みだったもんね。うーんとね、九里さん学校辞めちゃったんだって。それで九里さんの席が無くなって、1コ前に席がズレたの。だから峰くんの席はこっち。」言いながら、柚木が目の前の机を指差した。
いきなりそんなことを言われても、混乱するだけだった。辞めた?学校を?
「……それ本当?何でだよ?」聞くと、柚木の表情がさっと固くなった。
「私も昨日初めて知ったんだけどね、九里さんって留年生だったらしいよ。いくつ留年したかは知らないけど。まぁ留年っていろいろ辛いんじゃないかな。だって年下と同じ教室で生活するんでしょ?私だったら無理だなぁ。」
「……へぇ。」学年に何人か留年生が居ることは知っていたが、まさか九里さんがその一人だったとは思いもしなかった。
それから、柚木に言われた通りに一つ前の机に座りなおして、教科書ならなんやらを机の中に閉まっていると、机の奥の方で、クシャっという何か紙のようなものが潰れる音がした。
急いで中を覗くと半分に切ったルーズリーフが忽然と入っていた。どうやら今ので潰してしまったらしく、くしゃくしゃに丸まっていた。
机の中に手を入れて、それを取り出して広げてみると細い文字で何か書いてあった。
“ 今まで、本当にごめんなさい 九里瀬良 ”
……え?
よく、分からなかった。なんで九里さんが俺に謝ってくるのだろう。第一、ろくに話したことも無かったのに。
思えば、九里さんは不思議な人だった。目の前に座っていたけれど、記憶に残っているのはいつも派手なエナメルド色のパーカーを着ていた背中で、髪の毛も黒に近い紫に染めていた。こう言うとすごく派手な人に思えるが、不思議なことにクラスの中での影は薄かった。必要最低限の関わりしか、誰とも持っていなかった気がする。それにちょくちょく学校に来ない。遅刻は当たり前。けれど、そんなに落ちこぼれているような素振りは見せていなかった。
そして、いきなりの退学。ごめんなさいの手紙。
きっと変な人だったんだろう、そう、自分に言い聞かせて結論付けた。どうせもう関係のない人なんだし。これ以上考えたところで答えが出る訳でもないんだし。第一、人のことを探ろうだなんて悪趣味だ。そう、悪趣味だ。
俺はきっぱりと、気持ちを入れ替える。
そうだ、今日は昨日休んだ分の授業の穴埋めもしなければいけないんだし。