複雑・ファジー小説

Re: ■菌糸の教室■ ( No.30 )
日時: 2011/11/03 20:34
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hTgX0rwQ)

それから、しばらく。九里瀬良が退学してから。

僕のアパートに、あの不良達は一切やって来なくなった。
平和すぎて、少しだけ不安になる毎日が一日、また一日と過ぎて行った。
そうして、俺の日常から、“僕”としての俺は消えた。

そしてやって来る季節は梅雨。
今朝もいつも通りに目が覚めると、朝から大雨が降っていた。ザアザアと、窓も叩き割りそうなくらいに。うっわ最悪、と悪態をついてとりあえず食べる物を探す。冷蔵庫を開けるとマヨネーズとごま塩しかなかった。……残念すぎる。
俺は昔から雨が嫌いだ。暗くてジメジメしていて鬱になる。6月というこの季節は本当に早く過ぎ去ってほしい。

結局何も腹に入れられないまま、身支度を終えて、部屋を後にする。
傘を差して、外に出るとこれでもかと言うくらいに道路が水浸しになっていた。自動車が通るたびに、バシャーン と派手な水しぶきが上がっている。……これじゃせかっく新しく買ったスニーカーが台無しだ。

学校へと続く坂を上がり、教室に着いたころには全身びしょ濡れだった。今日は一日中ジャージ生活だろうな。

教室の扉は開いていた。ちょっと前にあった空き巣事件でしばらく教室の施錠が義務になっていたが、もう6月になって時間も随分経ったもんだから、理事会もそれほど警戒しなくなったらしい。



「おはよー」

いつも通り、本当にいつも通りに教室の扉をくぐる。
ほのかに、教室は甘い匂いがした。
目の前に楓の背中が見えたので挨拶替わりに体当たりを食らわす。
けれど、楓は何の反応もしない。ただ、ぼーっと突っ立ったままだ。


「どったの、楓? 何か事件でも ————— 」

瞬間、時が止まったかと思った。
教室が真っ白だった。ほのかに香る、甘い匂いはこの白から匂っているらしい。
白いソレは、小指くらいの大きさの、小さなきのこだった。


真っ白なきのこが、教室の壁という壁に、びっちりと生えているのだ。
少し、白に淡い青色がかった色をしている。きのこは、壁だけじゃない、よく見れば床にも机にも椅子にも、さらには黒板消しなんかにもびっちりと、まんべんなく生えている。



「……これ、きのこだよね?」





静かになった教室で、雨音だけが響いていた。