複雑・ファジー小説

Re: ■菌糸の教室■ ( No.31 )
日時: 2011/11/12 22:09
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hTgX0rwQ)


「……ん。」

悩ましげに息を吐いて、ふらふらと瓦礫の街から立ち上がる。
ゴミだらけの足場には無数の血の跡が走っていた。あーあ、また服を汚しちゃった。私の大好きな、パーカーのエメラルド色は汚い色で染まってしまった。先輩からもらった、大好きで大切なパーカーなのに。

切りつけられた、頬がひり、と痛む。
頭が、ガンガンと、割れるみたいに痛い。


だけど、こんな痛みなんでもないよ。
だって、峰くんはもっと痛かったんだもんね。辛かったんだもんね。

うまく動かない足を引きずって、私は愛しい人の面影を残す、あの子の元へと向かう。一歩ずつ、一歩ずつ。ゆっくりと。足が地面に着くたびに、鈍い痛みが全身に走る。赤い足跡が地面に残る。

「峰くん……起きてる?」
応答はなかった。壁にもたれかかった峰君は、疲れた表情でぐっすりと眠っていた。深く、ゆっくりとした呼吸が懐かしい。
彼の目の下にできた黒いクマが、私の罪を責めているようで、ただただ、空恐ろしかった。ごめんね、と何度も何度もつぶやく。

透き通るような白い肌に、そっと触れてみる。
伝わる熱が、嬉しかった。嗚呼、生きているんだと。守れたんだと。
らしくもない、涙が溢れてくる。これで、よかったんだ。これで、私一人、悪者で、


よかったんだ。


私、わたし、頑張ったよ。
涙が次から次へと溢れて、もうどうしていいか分からない。
ねぇ、こんなに頑張ったよ。血に汚れて、薬に汚れて、それでも私、頑張ったよ。

だから、
どうか、どうか私を許してくれますか ————————?



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 ■ 峰 由詩くん へ   菌糸の教室より ■

きのこは大きな笠を持っています。数多の胞子を守るために。
君は雨が降ったら傘を差します。冷たい雨から身体を守るために。

僕は君の傘でした。穴だらけで、何だかとっても頼り無い傘だったけど、少しは役に立てたかな?

だから、辛くなったらいつでも僕を呼んで。
大きな笠で守ってあげよう。君の心を守ってあげよう。

その間、君は眠っていて。僕が悪い人たちの相手をしている間は、ゆっくり眠っていて。

記憶が飛んじゃうのは勘弁して。
覚えていても辛いだけだし、こんな記憶は要らないよね。

僕は、君から生まれた。
世間の大人は、多重人格と僕らを指差すかもしれない。

でも 僕 だろうが、 俺 だろうが、僕らは同じ峰由詩。

一つの身体に二人。
……仲良く最後までやっていこうじゃないか。