複雑・ファジー小説
- Re: ■菌糸の教室■ ( No.32 )
- 日時: 2011/11/20 22:13
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hTgX0rwQ)
■第四話 出会い■
結局、あのきのこ事件はあっと言う間に幕を閉じた。
登校したみんなが見た、あの教室中にびっちりと生えたキノコは、信じられない事だが20分もすると跡形もなく消えてしまった。
いや、跡形も無く、では語弊があるかも知れない。
跡形はあるのだ。教室中にはほこりのような黒い染みが残った。あの、小さな白いキノコは俺たちが騒いでいる間にどんどん縮んでいき、最終的にはまるで溶けるように全てのキノコが消え、教室の壁や床にはきのこが生えていた跡、すなわちこの黒い染みだけが残った。
俺、楓秀也は曲がりなりにも学級委員長なので、一応このキノコの一件は担任に連絡した。突拍子も無い話すぎて、はじめ、担任は冗談だと思ったのかなかなか信じてくれなかった。
そして、あの珍奇な事件から一週間。
教室には変な雰囲気が漂っていた。あの事件以前は休み時間にもなればみんなの喋る声や騒ぐ音で賑わっていた教室だったが、今では全くの静寂に包まれるようになっていた。
なぜなら、口を開けばすぐに喧嘩になるからだ。
どうしてか、この頃のクラスメートはみんなイラついている。そう言う俺も常にイライラするようになっているくらいなのだが。
大勢で仲良く輪を作って弁当を食べる女子。
高校生にもなって追いかけっこをする奴ら。
一昔前のカードゲームに夢中になってる男子たち。
そんな、どこにでもあるような、普通の高校生らしい、平凡で平和な風景は全く見ることができなくなってしまった。
ただでさえ、六月というのは暗くてジメジメとした季節なのに。
そんなことを考えているといつの間にか授業は終わり、休み時間になっていた。
静かな休み時間だ。みんな、何をするという訳でもない。机に突っ伏して寝ているか、頬杖をついてボーっとしているかのどっちかだ。
その時、教室の入り口に、黒縁メガネをかけた学ラン姿の上級生らしき人が立っているのが目についた。
「誰か探してますか?」その人に近づいて、話しかける。
「うん。俺、放送部の宮下って言うんだけど、ここのクラスに柚木さんって居る?」
「ああ、居ますよ。」言いながら、教室の反対側、一番窓際の席で顔を伏せて寝ている柚木を指した。「起こしましょうか。」
すると宮下さんはううん、と首を振った。「今はいいや。悪いんだけどさ、柚木が起きたら いいかげん部活に顔出せよって俺が言ってたって伝えてくれるかな。」
「あ、はい。わかりました。」
そう言うと、宮下さんはサンキュ!と言って廊下を去って行った。
へぇ、柚木って放送部だったんだ。
どうでもいいことだが少し驚きだった。というか、なんで俺がこんなこと伝えなきゃいけないんだ。面倒くさいな。別にあの人が後でちゃんと伝えればいいじゃないか。
あれ? と自分自身を疑問に思う。
俺って、こんなに面倒くさがりだったっけ。こんなに嫌味な奴だったっけ。
なんで初対面の、しかも先輩相手にこんなにムカついているんだ?
何でだか、自分が自分じゃ無いような、そんな妙な気分になった。
やはり、この頃変だと思う。違和感とかそんなんじゃない、根本からしてきっと何かが変なんだ。
ハッとして、今立っている教室の入口から教室全体を見渡してみた。
外のどんよりとした灰色の空に、死んだような蛍光灯の光。
机に突っ伏したみんなは微動だにしない。みんな、灰色の光の中、眠っている。
よく分からない、きっとこの時感じた感情は単純に、〝恐怖" だったと思う。
俺は、これ以上この教室に居られない。いや、居てはいけないんだ。
なんでだかよく分からないまま、俺は廊下へ走り出していた。